ウォール街の占拠を超えて
2011年9月17日に、一握りの人々がウォール街に近いズコッティ公園を「占拠」して以来、11月15日に警察の手入れで追い出されるまでの2ヶ月間、「ウォール街を占拠せよ」は、あれよあれよの勢いで盛り上がりました。国民の99%を犠牲にモラルを欠いた1%の投機家が仕切る米国の現状という認識のもと、経済的不公平に異を唱え、経済的困窮を訴える運動ではありましたが、その意義は経済闘争にとどまりません。テロ対策と経済回復の名のもとで長らく保守右派に牛耳られ、市民の多くの権利を犠牲にさせられてきた人々の堪忍袋の緒が切れたのです。不満を抱えているのが自分ひとりではないことに気付いた人々が、「占拠」の場に集まり、手作りの様々な貢献をして自分たちがほしい社会の雛型を作ろうとした。こうして、参加型民主主義に再び力がみなぎりました。このセグメントでは、2人のゲストがこの運動の戦略と成功について語ります。
作家のジェフ・シャーレットさんはこの運動の新しさのひとつを、立ち上げに貢献した人々に見ます。最初は、どうせうまくいきそうにない運動に見えた。労働組合など要求闘争に慣れた既存の政治・社会運動団体は相手にしなかった。だから、運動の約束事がはいりこむことなく、アーティストや学生たちが「ダメ元」のノリで想像力豊かに運動の基盤を作ることができたと言うのです。一方、スペインからエジプトまでのグローバルな民衆蜂起を研究し、このときもギリシャから戻ってきたばかりだった社会変革研究者のマリーナ・シトリンさんは、この運動をアルゼンチンの2001年の経済危機後に生まれた、「ホリゾンタリダード(水平化)」につなげます。
水平的とは、人々が上下関係ではなく、フラットな形で関係を結ぶこと。人が人に対して権力をふるわない、だれもが可能な限り平等に耳を傾けてもらえる真の意味での民主主義の模索です。ズコッティ公園(リバティ広場)はそのような思いを持つ人々が集まり意思決定をする場であり、「急進的な組織の方法」を提示したと言うのです。だから、警察により公園から閉め出されても、そのような「広場」が職場や学校や隣近所に飛び火して新しい命を得るなら、悪くない。もともと、「今すぐ政府の支配権を手にしたい」人々の運動ではなかった。「私たち自身にとってよりよい暮らしを生むために、将来に向けてオルタナティブの種をまきたい」という運動だったのだとも。
占拠には厳しすぎる冬がすぎ、春が訪れ様々な企画や試みが行われています。息の長い現在進行形の運動の継続を覚悟して二枚腰、三枚腰で生き延びていくのか、仕切り直して新しい運動を散発しながら進化していくのか。運動が真に民主的な社会をもとめる人々に大きな希望と勇気を与えてくれたことは間違いありません。(大竹)
*マリーナ・シトリン(Marina Sitrin,)ニューヨーク市立大学のグローバリゼーションと社会変革センターのポスドク研究員。著書はHorizontalism: Voices of Popular Power in Argentina(『水平化主義:アルゼンチンの民衆パワーの声』)。スペインからエジプトまでのグローバルな民衆蜂起を研究。
*ジェフ・シャーレット(Jeff Sharlet,)ハーパーズ誌やローリングストーン誌の寄稿者で、ダートマス・カレッジオ英文学教授。ベストセラーになったThe Family (『ファミリー』)など著書多数。ローリングストーン誌にウォール街占拠運動の始まりを調査した"Inside Occupy Wall Street: How a Bunch of Anarchists and Radicals with Nothing but Sleeping Bags Launched a Nationwide Movement"(ウォール街占拠運動の内幕:寝袋しか持たないアナーキストと急進派の群れが全国的な運動をどうやって始めたか?)が掲載された。
字幕翻訳:小田原琳/校正:桜井まり子/全体監修:中野真紀子