ブラックウォーター 世界最強の傭兵軍の勃興 後編
イラクでは現在10万人以上の「民間軍事会社」従業員が活動をし ています。そのうちの多くの部分が、ひらたくいえば「傭兵」。頼まれればどこにでも傭兵を派遣する民間軍事産業は、9/11以降の政治情勢を背景にして大きく成長を遂げています。ブラックウォーターUSAは、そういった民間軍事会社の最大手、まさに「世界最強の傭兵軍」という呼び名がふさわしい存在といえます。ブラックウォーターが登場してきた背景と、戦争の民営化が巻き起こしている問題を、気鋭の調査ジャーナリスト、ジェレミー・スケイヒルが追いました。
3年前の2004年3月31日、ファルージャを走行中の「警備会社従業員」が、イラクの反乱軍により襲撃され、その遺体は燃やされたうえ橋に吊るされた。イラクの戦後の泥沼化を象徴しているようなその映像と、その後の米軍によるファルージャへの大規模攻撃のニュースを、衝撃をもって各国のメディアが放映したことを覚えていらっしゃる方も多いかもしれません。
しかしより正確には、ファルージャで襲撃された「警備会社従業員」たちは、それぞれ元特殊部隊など輝かしい軍事経験を買われ、イラクで高官の護衛など様々な任務につく、アメリカの「民間軍事会社」の従業員でした。現在、イラクでは彼らのような民間軍事会社従業員が多数活動していますが、その多くは、まさに「傭兵」と呼ぶにふさわしいものです。
調査ジャーナリストのジェレミー・スケイヒルは、イラク開戦前からファルージャをはじめイラク各地を度々取材してきました。ファルージャの事件を取材したジェレミーは、事件の犠牲者となった従業員の遺族らが民間軍事会社を相手取り訴訟を行っていることを知ります。企業秘密を理由に、遺品の返還や事件の説明といった遺族らの申し出をはねつけたことが原因でした。この企業こそ、民間軍事業界の最大手ブラックウォーターUSAです。
ブラックウォーターは、9/11以後の社会情勢を背景に、傭兵を提供する民間軍事業界をリードしてきました。共和党の保守革命と宗教右派の台頭を支援したプリンス一族によって創設されたこの企業は、政権のみならずネオコンや宗教右派と強いつながりを持っています。
CIA元高官らを幹部に迎え、国家にとっての核である「軍事」の民営化をバックアップするこの企業が力をつけてきた背景と、その活動が巻き起こしているさまざまな混乱や癒着などの驚くべき実態、そして傭兵を政権の道具として自在に扱えることで恩恵を受けている者と、それへの対抗の機運の高まりなどを、イラクからハリケーン・カトリーナ、ワシントンから中南米まで、綿密な調査をもとに書籍を出版したばかりのジェレミー・スケイヒルをゲストにむかえてお送りする今回のデモクラシー・ナウ!、ぜひご覧下さい。
(文:上田啓嗣)
★ DVD 2007年度 第1巻 「2007年4-5月」に収録
* ジェレミースケイヒル(Jeremy Scahill)アメリカの調査報道記者で作家。デモクラシー・ナウ!の通信員で、ナイジェリアで石油を採掘するシェブロン社と現地独裁政権のつながりを報道してエイミー・グッドマンと共に1998年のジョージ・ポーク賞を受賞した。ネイション・インスティチュートのパフィン財団ライティング・フェロー。占領下のイラクを取材し続け、特に民間の軍事請負企業ブラックウォーターに注目し続けてきた。最近出版された『ブラックウォーター 世界最強の傭兵軍団の勃興(Blackwater: The Rise of the World's Most Powerful Mercenary Army.)』はベストセラーになり、5月10日には国防総省の民間請負契約をめぐる下院公聴会でも証言した。
翻訳:上田啓嗣
字幕&監修:中野真紀子