モハメド・アリ 政治にコミットするスポーツ選手の草分け

2007/4/9(Mon)
Video No.: 
3
11分

 ボクシング界屈指の偉大なチャンピオンであるモハメド・アリは、その波乱万丈の生涯を通じ、その生きた時代の政治とのかかわりによって、まさに伝説的なものになっています。

 1960年ローマ・オリンピックでライトヘビー級金メダルを獲得した後、プロに転向したカシアス・クレイは、自分がブラック・ムスリム運動として知られる「ネイション・オブ・イスラム」のメンバーとなったことを公表し、同組織から与えられたムスリム名「モハメド・アリ」に改名することを宣言しました。スター選手がこの運動のスポークスマンとなり、公民権運動の推進と同時に分離主義的傾向の強い発言をしたことは、大きな物議をかもしました。

 またベトナム戦争にも批判的で、徴兵拒否をし、タイトル剥奪と活動停止に加え、禁固5年という異常な重刑を宣告されました。後に最高裁で逆転判決を勝ち取るまで、4年ほどボクシング界から追放されました。その後、「キンシャサの奇跡」と呼ばれる対決で、ヘビー級チャンピオンに復帰しました。 

 デイビッド・ザイリンは、「スポーツと政治の接点」という彼独自の視点から、スポーツ界の沈黙を破って、弱者のために闘うと言ったアリの生涯をとらえ直す新著を刊行しました。 

 タイトル・ナインというスポーツにおける男女の機会均等をめざした法律制定から35年を記念するその日に、ショックジョックという異名をもつ毒舌DJのドン・アイムスが女子大バスケチームの学生について差別発言をし、問題となりました。しかし、スポーツ界の反応は鈍く、この番組では、脱政治、非政治の傾向に覆われきっている現在のアメリカのスポーツ界への批判をこめて、モハメド・アリと彼の時代について語っています。

 また、アメリカ史上における極悪な人種差別に基づいた冤罪であるゲイリー・タイラー事件について、若い人たちに伝え、教育し直そうと訴えています。(文:川上奈緒子)

★ DVD 2007年度 第2巻 「2007年6-7月」に収録

* デイビッド・ザイリン(David Zirin) 企業メディアが推進するスポーツのイメージが金儲けの道具としてのスポーツになっているという批判的視点から、スポーツと政治のかかわりを注目した記事を書き、評価の高い気鋭のスポーツ・コラムニスト。ウェブサイトEdgeofSports.comに毎週コラムを掲載する他、『ネイション』誌などにも寄稿している。最近 Hohammed Ali Handbook (『モハメド・アリ・ハンドブック』)を出版した。

Credits: 

翻訳・字幕: 川上奈緒子
全体監修:中野真紀子