ボリビア大統領エボ・モラレスに聞く 少数民族の権利、気候変動、イラク情勢、イランとの国交樹立、チェ・ゲバラの功績 前編
ボリビア発の先住民族出身の大統領、エボ・モラレス大統領は、2007年9月、国連総会演説のために、NYを訪問しました。デモクラシー・ナウ!では単独のロングインタビューを行い、演説の内容、イランとの関係、民主主義のあり方などについて話を聞きました。
国連演説のポイントは2つ。
1つは、気候変動ハイレベル会合での演説で、大統領は、環境破壊の原因は先進国の略奪方資本主義だと批判しました。現在、石油に代わる燃料として注目を集め始めているのがバイオ燃料。とうもろこしなどの材料からエタノールをとるというもので、ブラジルは米国のバイオ燃料に協力姿勢を見せています。しかしモラレス大統領はこのせいで土地やとうもろこしの値段の急騰したと批判していて、「農作物は車に捧げるべきものではない。車を養う前に、人を養わなくては」と発言しています。
もう1点は、ボリビアで進められている、憲法改正に関して。モラレス政権は、植民地時代の歴史から抜け出し、住民全ての権利が認められるための新憲法を作ろうとして、2005年に憲法制定議会を設置しました。人口の92%を占め、36民族もいるボリビアの先住民族の権利を認めるというものです。ところが、石油や天然ガスなどの資源の富を占有してきた東部4県を中心に、富の再分配には反対勢力も強く、新憲法の審議は激しい妨害を受けてきました。
折りしも、モラレス大統領が演説を行うちょうど1週間ほど前に、国連総会で先住民の人権宣言が採択されました。この宣言は、先住民族の土地所有権や自決権を認めています。モラレス大統領は、「この宣言を盾に、先住民族が報復に出ることはない」と断言し、先住民族の権利の承認に反対する人々に、宣言を尊重するように求めています。
イランと国交を樹立したことについて尋ねられた大統領は、「イランの工業技術や天然資源の開発を尊敬していて、その分野の協力を求めたい。少なくともイランは、他国を侵略し殺戮する国ではありません」と発言。「アメリカの反応は?」と聞かれ、「ボリビアは小さくても主権国家。どの国もボリビアの外交に口を挟むことはできない」と答えています。
「21世紀は命を奪う世紀ではなく、命を救う世紀にするべき。意見の違いは外交で解決し、政府間で解決できない場合は民間に判断を委ねる。それが理想的な民主主義です」とモラレス大統領。 先住民族の深い哲学と、破綻したボリビア経済を救った実利的手腕を併せ持った彼は、複雑なボリビア社会に対して、今後どのように采配を振るっていくのでしょうか。 (古山)
★ DVD 2008年度 第1巻 「中南米の潮流」に収録
*エボ・モラレス大統領(President Evo Morales) ボリビア初の先住民族出身の大統領。2005年に大統領に当選。石油や天然ガスの国有化などを進め、60年間続いたボリビアの財政赤字を黒字転換し、10億ドル未満だった外貨準備金を50億ドルまで引き上げるなど、経済的成果も上げた。コカインに加工する前のコカの葉は無害で、先住民族の文化では重要な嗜好品なのに、コカ栽培を犯罪扱いしようとする米国などの動きに反発。2006年の初めての国連演説で、そのことをアピールして話題を呼んだ。貧困層の生活向上につとめ、人口の92%をしめる先住民族の地位向上をめざした政策に、数多く取り組んでいる。
翻訳字幕:桜井まり子
全体監修:古山葉子