「イエスは何を買うだろう?」 ビリー牧師と無買聖歌隊の「買い物やめろ」伝道
米国では、年間で最も繁盛するクリスマス商戦の幕開けが11月第4木曜日の感謝祭です。商業主義にのっとられ消費の祭典と化したクリスマス・シーズンに向け、「より安くより沢山」消費せよという風潮が、間接的にアメリカ人の暮らしを蝕んでいるのではないかと問いかける新作ドキュメンタリーがニューヨークで公開されました。『イエスは何を買うだろう?』(“What Would Jesus Buy?”)は、ビリー牧師と無買教会のゴスペル聖歌隊のアメリカ横断「買い物やめろ」伝道を追います。
アメリカ最大級のショッピングセンター「モール・オブ・アメリカ」やウォルマート本部、スターバックスやディズニーランドなどでのパフォーマンスや、田舎町の人々とのふれあいを通して浮かび上がってくるのは、グローバリゼーションの進展による国内産業の空洞化が、多くのアメリカ人を低賃金労働と安価な輸入品への依存に陥れている現実です。
この悪循環にうすうす気づきながらも、たいていの人々は立ち止まって反省する機会がありません。便利で安いものばかりを求める消費行動が、地域社会や生産国の人々に及ぼす影響に思いをめぐらせる余裕がないのです。でも、この状況を変えることができるのは、個々人の行動です。「私達の投票よりもお金の使い方が、この国の方向を決める真の力です」とスパーロック監督は述べます。
ビリー牧師の派手な伝道活動は、当然ながら企業側には営業妨害行為と映り、じきに警備員が登場し、退去勧告や身柄拘束、ときには逮捕という事態を引き起こします。これに対し、合衆国憲法修正第一条の言論と集会の自由を持ち出して抗議するビリー牧師の意図は、人の集まるショッピング・モールが、じつは企業によって奪われた公共空間であることを際立たせようとするもののようです。公共の場がどんどん企業の私有空間に置き換えられていることが、病理の根底にあることを示唆しています。 (中野)
*ビリー牧師 (Reverend Billy) 本名はビル・タレン。無買運動をすすめるニューヨークのパフォーマンス・ア―ティスト。「無買教会」(Church of Stop Shopping)を組織し、無買聖歌隊を引き連れ、「買い物やめろ」伝道を行う。感謝祭には、何も買うまいという「無買日」(post-Thanksgiving Buy Nothing Day)の運動を行った。
*モーガン・スパーロック(Morgan Spurlock) 映画『イエスは何を買うだろう』(“What Would Jesus Buy?”)のプロデューサー。監督作品 『スーパーサイズ・ミー』は2004年アカデミー賞にノミネートされた。
字幕翻訳:川上奈緒子 / 校正:田中泉
全体監修:中野真紀子