飽食と飢餓 世界食糧システムの隠れた戦い 後編

2008/4/16(Wed)
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14分

4月頃から食糧価格の急騰で、ハイチやエジプトを始め東南アジアやアフリカの各地で食糧暴動が起こっています。世界銀行の推定では世界の食糧価格は過去3年で8割も上昇し、少なくとも33カ国で社会不安が拡大しています。国連世界食料計画は5億ドルの追加支援が必要と訴え、6月には国連主催の「食糧サミット」が開かれました。

でも途上国の食糧暴動をテレビで眺める私達の食卓には、栄養豊富な加工食品が並んでいます。時間も手間もいらず、体によい食品のはずなのに、米国では病的な肥満が急増しています。しかも貧しい人々ほど肥満に陥りやすい。8億人が飢える一方で、10億人が肥満という現代世界の矛盾はどこから来るのでしょうか。

少数の巨大食品企業が生産と流通を支配し、生産者価格を最低に押さえ込む一方で、大都市の貧しい消費者には高カロリーの工業食品を大量に消費させる現在の世界的な食品供給システムの矛盾に、ラジ・パテルが切り込みます。

現在の食糧価格の上昇は、気候変動による世界的な不作、途上国での肉食が増加し、飼料用の穀物需要が増加したこと、原油価格の高騰による食糧生産コストの上昇、地球環境問題の特効薬としてもてはやされるバイオ燃料への穀類の転用など、さまざまな悪条件が重なったことにあります。しかし問題の根幹にあるのは、欧米が推進する自由貿易政策によって途上国の農業経済が破壊されたことだとパテルは指摘します。世界銀行、世界貿易機関、国際通貨基金などの国際金融機関が途上国に強制する自由貿易政策は、独善的な「創造的否定」の文化があるとパテルは批判します。(中野)

* ラジ・パテル(Raj Patel) 米国カリフォルニア州在住の食糧政策アナリスト。研究過程で世界銀行、世界貿易機関、国連に在籍したこともある。アフリカでの開発支援や、国際的な農民連帯組織ビア・カンペシーナ(Via Campesina=農民の道)への協力活動を行う。現在カリフォルニア大学バークレー校のアフリカ研究センターに籍を置き、最近、初の著書はStuffed and Starved: the Hidden Battle for the World Food System(『飽食と飢餓―世界食糧システムの見えざる戦い』)を刊行した。http://www.rajpatel.org/

Credits: 

字幕翻訳;大竹秀子/校正:斉木裕明 
全体監修:中野真紀子