グルジア紛争はカスピ海のエネルギー資源をめぐる覇権争い

2008/8/15(Fri)
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2008年8月、グルジア共和国で分離独立を主張する南オセチア自治州に政府軍が攻撃をしかけたことをきっかけに、ロシア軍がグルジアに侵攻し、双方の無差別攻撃により多数の民間人死傷者が出ました。南オセチアとアブアジアの2州は独立を宣言し、ロシアがこれを承認し国交を樹立すると、グルジアを支援する米国とロシアのあいだで緊張が高まり、グルジアのNATO加盟に向けた動きが加速しました。米国のエネルギー関連地政学の専門家マイケル・クレアは、この軍事衝突は、カスピ海地域の広大な埋蔵石油・天然ガスへのアクセスをめぐるエネルギー戦争なのだと言います。

ロシア=グルジア紛争の報道はパイプラインやエネルギーの問題にほとんど注目していませんが、事の起こりは旧ソ連の崩壊に乗じて、米国がカスピ海の石油とガスを、ロシアを迂回してヨーロッパに輸出する経路として、グルジアに目をつけたことです。クリントン大統領の肝いりでグルジアにパイプラインが建設され、それを擁護するため米国はグルジア軍をゼロから立ち上げるのを支援しました。これに怒ったロシアはグルジア領内のアブハジアと南オセチアの独立運動を支援したのだとクレア教授は言います。

グルジアのパイプライン建設以前にはカスピ海のエネルギー資源はすべてロシアを通って欧州に輸出されていました。カスピ海から欧州への石油と天然ガスの流れを支配することにより、利益を最大化し欧州への政治的な影響力を行使しようとするロシア指導部と、パイプライン建設によりロシアの影響を切り崩そうとする米国が、欧州への影響力をめぐるって地政学的な抗争を繰り広げているのです。クレア教授の説明によれば、今回のロシアのグルジア侵入の大きな目的の1つは、グルジアのパイプラインなどいつでも粉砕できるというメッセージをヨーロッパに伝えるためでした。

米国によるグルジアへの軍事支援やNATO加盟支持は、ロシア側からすれば大規模なロシア包囲陣の一環です。ブッシュ政権はチェコにレーダー基地を置き、ポーランドに迎撃ミサイルを配備する計画を進め、ウクライナとグルジアをNATOに引き込もうとしています。こうした行動はロシアの危機感を抱かせ、強力な措置をとる必要があるという焦燥感をあおることになります。

2009年冒頭の大きな国際ニュースの1つは、ロシアとウクライナの価格交渉の破綻から、ウクライナへの天然ガス供給が停止し、ヨーロッパへのガス供給にも支障が出ていることでした。おりしも異常な寒波に襲われているヨーロッパでは凍死も多数でていますが、これも上記のような隠れた抗争を背景にしてみると意味深長のようです。(中野)

★ DVD 2009年度 第1巻 「環境とエネルギー」に収録

マイケル・クレア(Michael Klare) マサチューセッツ州アマーストのハンプシャー大学に本部を置く五大学合同プログラム「平和と世界安全保障学」の主任教授。ネイション誌の国防問題アナリストで、『血と石油』はじめ多数の著書がある。最新著はRising Powers, Shrinking Planet: The New Geopolitics of Energy(『拡大する覇権 縮小する地球 エネルギーの新地政学』)

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字幕翻訳:岩間龍男/校正:永井愛弓
全体監修:中野真紀子・高田絵里