NAFTA見直しの公約を反故にするオバマ大統領
8月にメキシコを訪れたオバマ大統領は、メキシコのフェリペ・カルデロン大統領とカナダのスティーブン・ハーパー首相と初の北米自由貿易協定(NAFTA)首脳会談を行ない、移民法改革、貿易、メキシコの麻薬戦争、ホンジュラス危機、新型インフルエンザ等について協議しました。オバマは選挙中にNAFTA見直しを約束していましたが、就任後は世界的経済危機を理由に実行を先送りしています。
政策研究所の研究員ペレス=ロチャによれば、NAFTAの軍事同盟化をねらうブッシュ時代の構想は首脳会談の表舞台からは消えましたが、メキシコ社会の統制強化と軍事化は進んでいるようです。一握りの企業と政治指導者だけが密室で物事を決める体質は変わらず、労働団体や人権団体から批判が上がっています。
米国の労働者は貿易協定に労働基準を盛り込むことを要求しています。労働と環境の問題が軽視された結果、企業は違反に罰則がないメキシコに流出して、労働条件を悪化させました。メキシコの農家は米国からの安価な輸入品に太刀打ちできず、200万人もが土地を離れて移民労働者となりました。メキシコの民衆は、基本的な食糧の供給を貿易協定から除外するよう求めていますが、その声は首脳会談に反映されませんでした。
国際政策センターのローラ・カールセンは、このようなNAFTAのあり方が豚インフルエンザの発生と流行につながったと指摘します。1994年のNAFTA発足と同時に、米国企業の巨大な養豚場が環境規制のないメキシコに移転しました。その結果ひどい衛生状況で養豚場が運営され、汚染を撒き散らしています。そうした養豚場の集中するペロテ州ベラクルス地方がウイルス発生地になりました。
豚インフルエンザ・ウイルスは「NAFTAウイルス」とさえ呼ばれているそうですが、米国の主流メディアはメキシコで経営される米国の養豚場の問題をほとんど報じません。世界的な流行が迫っているというのに、「豚インフルエンザ」ではなく「H1N1」と呼んで、問題の根源を隠しておこうとしています。NAFTAには、環境や労働規制の欠如につけ込む現在の経済モデルの問題点が、はっきり浮かび上がっているようです。(中野)
*マヌエル・ペレス・ロチャ(Manuel Perez Rocha)
政策研究所の研究者で、自由貿易についての行動ネットワークの一員
*ローラ・カールセン(Laura Carlsen)
メキシコシティにある国際政策センター米州政策プログラム理事。長年メキシコに住み、同国の社会・政治問題について多数の記事を発表している。
字幕翻訳:田中泉/校正:斉木裕明
全体監修:中野真紀子・付天斉