新段階を迎えるゲイ権利運動
2009年10月11日ワシントンDCで、同性愛者など性的少数者(LGBT)の完全な平等を求めるデモ行進が行われました。20万人が参加し、過去10年に首都で行われたLGBTの権利要求デモで最大級と言われています。この運動の現状と、オバマ政権の姿勢について、ゲイ人権運動のベテラン活動家アーバシ・バイド弁護士に聞きます。
バイド弁護士は、11月のワシントン行進は既存組織による動員ではなく若い世代の草の根の活動の成果だったとして、1)運動の世代交代、2)ゲイでない人々も大勢参加した、3)参加者たちが掲げる目標が、人種差別や社会正義などに広がっていたことを挙げています。運動組織の肥大化が硬直化をもたらし、下からの改革や積極行動主義を殺してしまう危険を、新しい力が流れ込んだことによって回避することができたのです。
ニューデリーで生まれの帰化移民であるバイド弁護士は、1970年代以降の女性解放運動とのかかわりからゲイの人権運動に入りました。「マイノリティの女性である私には、すべてがつながっています──人種の平等、ゲイの人権、経済的な不公正の是正が絡み合っている。いまの社会において、ゲイの人権運動は右翼の価値観や思想との戦いと絡み合っています。そのことを忘れないでほしい」と言います。
経済危機や戦争や医療保険制度改革など問題山積のオバマ政権ですが、だからといってゲイの人権問題を後回しにすることは危険だとバイド弁護士は指摘します。人々が職を失い、不安にかられる時こそ、有害な扇動勢力が独裁権力を握る機会が生じるからです。米国では現在、右翼の活動が顕著になり、移民やゲイが攻撃され、女性解放や人種平等の主張は叩かれています。大企業や銀行を救済しても庶民への助けにはならないように、「先に経済問題を解決してから社会問題へ」では失敗します。ふたつの現実を一緒にして対処しないとだめだと、バイドは言います。(中野)
* アーバシ・バイド (Urvashi Vaid) 長年ゲイ&レズビアンの権利運動にたずさわってきた弁護士。全米ゲイ&レズビアンタスクフォースの元代表で、現在はアーカス財団の代表理事。著書は Virtual Equality: The Mainstreaming of Gay and Lesbian Liberation(事実上の平等 ゲイ&レズビアン解放のメインストリーム化) 2009年4月に、Out誌が選ぶ「アメリカで最も影響力のある50人の女性」のひとりに選ばれた。
字幕翻訳:北丸雄二/校正:大竹秀子
全体監修:中野真紀子