タビス・スマイリーがオバマ大統領とキング牧師を徹底比較
黒人初の米国大統領バラク・オバマ政権が誕生してから1年あまり、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が暗殺された4月4日を目前にした2010年3月29日にオンエアされたこのセグメント。米国の公共放送PBSでオバマ大統領とキング牧師を徹底的に比較した番組を制作したテレビ司会者で作家のタビス・スマイリーがゲストです。
リベラル派の大きな期待を受けてスタートしたオバマ政権ですが、その施政には多くの人々が失望を隠せません。それでもオバマ政権を批判すれば、ティーパーティに代表される、オバマを仇敵としてつけ狙う右翼保守派の勢いをあおる追い風になりはしまいかと、特に黒人のリベラル派からは批判の声あがりにくいのが実情です。
そんな中で長年にわたり公民権運動を支えてきた黒人リベラル派がついにオバマ大統領に対する堪忍袋の緒を切る事件が起こりました。2009年12月のノーベル平和賞授賞式でのオバマの演説です。演説の中でオバマはやはりノーベル平和賞受賞者だったキング牧師に言及し、尊敬の意を表しながらも、「キング師はアルカイダを知らなかった」と述べ、意図的ではないにしろキング牧師とその思想そしてガンジーの非暴力の思想の無力を語り、自らのイラクやアフガニスタンでの戦争の正当性を論じました。これは、キング牧師をともに公民権運動を支えた人々にとっては「平手打ちをくらわせられた」ような発言でした。
このオバマ発言に対抗し、タビス・スマイリーは、彼の特別番組の中でキング牧師の1967年の反戦演説「ベトナムを超えて」に焦点を当て、ベトナム反戦を唱えたキング牧師の晩年の勇気と孤独を浮き彫りにしました。軍国主義・貧困・人種差別のつながりを見抜き、反戦を説いたキング牧師の発言は、当時の時代背景の中では大変な勇気を必要とするものでした。人類愛と正義にみちたこの演説を当時の主要新聞はまるで「ハノイのプロパガンダ」ではないか、公民権運動の指導者が外交にいっぱしの口をきくなどおこがましいとこっぴどくたたいたのです。公民権運動を共に闘ったジョンソン大統領は、キング牧師をホワイトハウスから追放し、米国民の4分の3はキング牧師を嫌い、黒人の55%からもそっぽを向かれました。そしてまた、この演説はきっちり1年後のキング牧師暗殺の引き金にもなったのです。
テロリストの存在を知らなかったどころか、日々、生命の危険にさらされながらも、また意気にはやる黒人の若者たちの反発にあいながらも、支配と偏見と憎しみの悪循環を裁ち切るために暴力に対してあえて非暴力を説き続け、凶弾に倒れたキング牧師。その知られざる反面に、タビス・スマイリーの番組は焦点を当て、コーネル・ウェスト教授などのリベラル黒人指導者たちと共に、「微笑みをたやさぬ米帝国の顔」と化したオバマ大統領に、キング牧師に学ぶよう再考を迫ります。(大竹)
★ DVD 2010年度 第1巻 「公民権運動」に収録
*タビス・スマイリー(Tavis Smiley) テレビ司会者、PBS(公共放送)「タビス・スマイリー・ショー(Tavis Smiley Show)」などで活躍。
字幕翻訳:内藤素子/校正:大竹秀子
全体構成:中野真紀子・付天斉