証券詐欺訴訟の和解でゴールドマン・サックスの株価上昇
下落をみこんでいた住宅ローン担保証券を優良商品として顧客に販売して証券詐欺で訴えられていたゴールドマン・サックス(GS)は、5億5千万ドルの罰金を支払うことで証券取引委員会(SEC)と和解しました。SECは米国金融史上最大の和解金と自賛しましたが、傍から見れば首をかしげるような少額です。この程度ならゴールドマンは2週間で稼ぎ出すでしょう。市場の反応は正直で、ゴールドマンの株価は和解発表後5%も上昇し、時価総額の増加分だけで和解金を上回りました。同社の衝撃的な経歴をあばいたマット・タイビ記者に話を聞きます。
この生ぬるい措置は、米国の規制当局の違反への対処にみられる一般的な傾向だとタイビ記者は言います。ここ20年程、大手銀行の不正行為が発覚するたび、銀行は悪事で得た利益よりずっと少ない罰金を払っただけで、刑事責任は問われず、誰も投獄されませんでした。捕まってもわずかな罰金で済むのなら、彼らは違反行為をくり返します。なかでもゴールドマン・サックスは、この20年のあいだ繰り返し投機バブルを作り出し、責任を追及されることなくバブルのたびに儲けを拡大してきました。ITバブルでも、住宅ローンバブルでも常にゴールドマンが投機の中心にいたのに、いつも刑事責任を免れています。ゴールドマンには、米国のほかの銀行には見られないような政府との強い結びつきがあるからです。
元GS副会長ロバート・ルービンは、クリントン政権の財務長官に就任し、次々と規制緩和を進めました。その仲間や部下が常に政権内の要職についています。ブッシュ政権末期の金融危機でいち早く銀行救済措置を取ったヘンリー・ポールソン財務長官も元GS会長です。オバマ政権では、ティモシー・ガイトナー財務長官はルービンの元側近、財務省ナンバー・ツーのパターソン氏は元GS社員で、商品先物取引委員会のゲーリー・ゲンスラー委員長もGS出身で、ルービン元財務長官の部下でした。商品先物市場は、GSが考案した商品インデックスファンドが穀物投機バブルを引き起こし、2008年の食糧危機を引き起こしたと言われています。
煮ても焼いても食えない会社ですが、ではGSが次のバブルを狙う投機市場はどこにあるのか? CO2排出権取引のカーボンクレジット事業に多額の投資をしているそうです。これがオバマ政権の気候対策の目玉になっているのは、そういう理由なのかもしれません。(中野)
マット・タイビ(Matt Taibbi) ローリングストーン誌の政治記者。"The Great American Bubble Machine"など、ゴールドマン・サックスについての記事を書いてきた。
字幕翻訳:中村達人/校正:関房江
全体監修:中野真紀子