人と環境に迫り来る大規模経営の養豚、酪農、養鶏の脅威
米国では8月に、サルモネラ菌感染の疑いで5億個の鶏卵が回収されました。空前の卵パニックの影にひそむ大規模な畜産経営の問題について、『動物工場:人間と環境に迫り来る大規模経営の養豚、酪農、養鶏の脅威』の著者デイヴィッド・カービーと話します。カービーは様々な具体例をあげながら工業生産方式の畜産が作り出す甚大な環境被害と、公衆衛生の危機を警告します。規制の導入と強制力を持った行政の監督の必要性を訴える一方で、大規模畜産への間接的な助成をやめて小規模な畜産農家が存続していける競争環境を整えることも重要だと指摘します。
工業畜産場では何十万羽の鶏が小さな檻にすし詰めにされ、豚や乳牛も身動きもできない小さな檻に詰め込まれています。ガスや細菌やウイルスを換気ポンプで外に吐き出さなければすぐに死んでしまうような、不潔な環境は感染の温床です。昨年、パニックを引き起こした豚インフルエンザ(新型インフルエンザと日本のマスコミは呼んでいましたが)も、元をたどればメキシコに進出した米国の養豚工場が元凶といわれています。また、大量に投与される抗生物質は新型MRSA発生の原因にもなります。
不潔な環境でできるだけ早く育てるためブロイラー用の鶏の飼料にはヒ素が混入されるそうです。牛の肉も使われており、その鶏糞を牛に肥料として与えているため、牛に牛を食わせることで起こったといわれる狂牛病の発生も危惧されます。
人間の3歳児並のIQを持つといわれる豚の飼育方法も、おぞましいものです。夜になって職員が帰宅した後の真っ暗な養豚工場では、夜通し豚が泣き叫ぶ声が闇に響き渡るそうです。そして豚の排泄物が大量に撒き散らされる周辺地域の環境汚染もすさまじい。汚物が流れ込んだ川には藻が大量発生し、魚が死に絶えます。これが原因でメキシコ湾では毎年夏に魚など海洋生物の大量死が起きているそうですが、原油流出事故のようには報道されません。
聞けば聞くほどおぞましい話ですが、後半で語られているように、こうした現状に抵抗して立ち上がった住民たちの連帯が救いです。また抜本的な対策として、小規模な畜産農家でも経営が成り立つような条件や環境を整えていくことが必要だということも指摘されています。(中野真紀子)
*デイビッド・カービー(David Kirby) ジャーナリスト。 Animal Factory: The Looming Threat of Industrial Pig, Dairy and Poultry Farms on Humans and the Environment (『動物工場:人間と環境に迫り来る、大規模経営の養豚、酪農、養鶏の脅威』)の著者。ウェブサイトは、"AnimalFactoryBook.com"http://animalfactorybook.com
字幕翻訳:小椋優子/校正:関房江/全体構成:中野真紀子