ローレンス・サマーズ大統領経済顧問が “やっと” 辞任
「どうにもわからんのですよ」とロバート・シーアは首をひねる。ローレンス・サマーズが国家経済会議委員長辞任を表明した直後に放送されたこのセグメントで、シーアはそのニュースに「辞めてくれてありがとう」と言わんばかりの歓迎を示しつつ、だがそもそも「オバマ大統領はなぜ、サマーズ氏を登用したのか?」と首をかしげる。大統領予備選で「普通の人たちを無視し」「極端な規制緩和」を行い経済破綻の「元凶」となったとクリントン政権を批判したオバマが、大統領就任後、なぜ、クリントンの政策の考案者たちに経済運営を任せたのか?
中でも、サマーズ。経歴だけひもとけば、ノーベル経済学賞受賞者のポール・サミュエルソンを伯父に持ち、16歳でマサチューセッツ工科大学に入学し、28歳でハーバード大学史上最年少の教授となり、ハーバード大学学長も体験したサマーズをオバマが「頭脳明晰」と賞賛したからといって、ケチのつけようはなさそうだ。
だが、ベテラン・ジャーナリスト、ロバート・シーアの目には、時の政権の「最高の教育を受けた頭のいいエリート集団」が繰り広げる失態は、ベトナム戦争時代の二の舞だ。新著The Great American Stickup: How Reagan Republicans and Clinton Democrats Enriched Wall Street While Mugging Main Street(『アメリカの大強盗:一般市民から巻き上げた金でウォール街を潤したレーガン共和党とクリントン民主党』)を世に出したばかりのシーア。そのサマーズ観は特に辛口だ。
「クリントン政権では財務長官として徹底的に規制緩和しレーガンが夢見た革命を実現」させ、「商品先物近代化法をごり押しし毒入り金融商品を生んだ。経済崩壊に対する責任は誰よりも重い」「彼より劣る後任はありえない」とまで言う。だが、「企業支配の手先と化したオバマ」への大きな失望を表明しつつ、シーアはこうも言う。「むろん変わる可能性はある。サマーズの辞任が新しい米国の始まりかもしれない」と。
奇しくもこの原稿を書いている2011年1 月7日にサマーズの後任人事が発表された。新任の国家経済会議委員長はジーン・スパーリング。サマーズの師匠、ルービンに連なる人脈で、スパーリングはクリントン時代に国家経済会議委員長を体験した。ゴールドマン・サックスで勤務したこともあり、ウォールストリートとの絆も強い。違いといえば、傲慢で不用意な発言も多く議会関係者とのあつれきが絶えなかったサマーズに比べ、腰が低く駆け引きが上手な能吏とされている。シーアのため息が聞こえてきそうだ。(大竹)
ロバート・シーア(Robert Scheer)カリフォルニア在住のベテラン・ジャーナリスト。1976年から1993年までロサンゼルス・タイムズ紙の記者として、また、その後2005年まで同紙の連載コラムニストとして活躍した。リチャード・ニクソンからビル・クリントンまで歴代の全大統領をインタビューし、特に『プレイボーイ』誌に掲載された、ジミー・カーター大統領インタビューは正直なホンネを引き出したとして大きな話題をよんだ。現在は、オンラインマガジン、 Truthdig(英語)の編集長。日本語訳が出た著書に『破滅への選択:レーガンの核戦略』、モーリス・ツァイトリンとの共著『キューバ』がある。新著は、The Great American Stickup: How Reagan Republicans and Clinton Democrats Enriched Wall Street While Mugging Main Street(『アメリカの大強盗:一般市民から巻き上げた金でウォール街を潤したレーガン共和党とクリントン民主党』)。
字幕翻訳:大竹秀子
校正・全体監修:中野真紀子・桜井まり子