ジュリアン・アサンジとスラボイ・ジジェクの対談 Part 1 ウィキリークスの理念と影響、マニング、米国での大陪審
2010年12月ロンドンの監獄からは保釈されたものの、以来ずっとノーフォークの邸宅に軟禁状態に置かれてきたジュリアン・アサンジが、スウェーデンへの身柄引き渡しに抗告する上訴審を間近に控えた7月2日、初めて公開の場に姿を見せました。スラボイ・ジジェクと長時間の対談を行い、司会はエイミー・グッドマンという、たいへんに珍しく興味深いイベントです。主催のフロントライン・クラブは、最前線で命を落とした戦争ジャーナリストを記念して設立された団体です。二時間に及ぶ興味深い対話を2回に分けてお送りします。
前半で取り上げる話題は、まずウィキリークスが2010年になって続々と公開したアフガニスタンやイラクでの米軍の戦争犯罪の記録や国務省の外交公電など膨大な数量の歴史資料が国際社会に及ぼした影響とその意義についてです。歴史の記録が主流メディアによってねじ曲げられ、この世界について人々が正しい認識を持つことをできなくしているため、よりよい社会を築いていくための人々の協力を妨げられているとアサンジは言います。
一方ジジェクは、日常の言説に埋め込まれた言外のほのめかしによって私たちの思考を縛り、それと気づくこともできないほど強力な現代のイデオロギー支配を、ウィキリークスが打ち破ったと絶賛します。
そうしたウィキリークスの活動に米国政府はヒステリックな反応を示し、関係者に捜査の手が伸びています。ウィキリークスに米軍内部の情報を渡したとされる元米軍上等兵ブラッドリー・マニングは、かれこれ1年も前から軍に身柄を拘束され、厳しい独房監禁が続いている模様です。アサンジ自身もいまだにどの国でも起訴されていないのに半年間も軟禁されたままであり、レイプ被害の申し立てを基にスウェーデン当局への身柄引き渡し請求が出ています。起訴もされていないのに外国の裁判所に引き渡されかねないという、EU加盟国間の身柄引き渡し協定の危うさが浮きぼりになります。また、米国でもウィキリークスの訴追の可否をめぐってワシントン近郊で秘密の大陪審が進められていますが、これも「中世の暗黒裁判」とアサンジが嘆くような恣意的な秘密裁判のようで、日本の検察審査会に通じるものがあるようです。(中野真紀子)
*ジュリアン・アサンジ(Julian Assange) WikiLeaks.org. 編集長
*スラボイ・ジジェク(Slavoj Žižek) スロベニアの哲学者 精神分析学者 文化理論家。著書多数。新著はLiving in the End Times. ( 『終末の世を生きる』)
字幕翻訳:小椋優子・田中泉/全体監修:中野真紀子