英国のウォーターゲート「マードック盗聴スキャンダル」
ルパート・マードックのメディア帝国に逆らえば当選できないと悟った始めての英国首相は、マーガレット・サッチャーだったと言われます。遠路はるばるオーストラリアまでご挨拶に出向き、マードック氏の新聞サン紙を手にチェシャ猫のような笑顔で写真に収まったトニー・ブレア、おそらくやばいことになるとわかってはいながら、盗聴や賄賂による取材にまみれたマードック帝国の元編集幹部を広報担当者として雇わざるをえなかったキャメロン。マードック盗聴スキャンダル暴露の渦中にリリースされた、このウェブエクスクルーシブ・セグメントの中で、ゲストでアルジャジーラのメディアウォッチ番組「リスニングポスト」の司会者、リチャード・ギズバードは、マードック帝国に戦々恐々とする歴代の首相の姿を語っています。
英国で4つの全国紙をもち新聞市場の4割を牛耳り、24時間ニュース局まで手に入れた、マードックのニュースコープ社。政界はもちろん、警察にまで手を伸ばし、カネ(賄賂)と恐怖(脅し)と汚い取材(盗聴)で「おいしい」情報を仕入れつつ、批判の声をつぶしてきたのです。徹底的に捜査されれば、英政界にとってウォーターゲート事件を超える事件になるはずのスキャンダル暴露。それなのに、悪事があまりにも深く浸透し、政治家も役人も身に覚えのある人があまりにも多すぎる。「腐りすぎていてつぶせない」まま、政界や警察は数人をトカゲのしっぽ切りで血祭りにあげ、体制自体の崩壊は防ぐことになりそうです。
飛ぶ鳥落とすマードック氏でしたが、頭があがらない相手はいました。大株主です。マードックの会社ニュースープ大株主であるサウジの王族が、電話盗聴スキャンダルで捜査を受けていたニュース・オブ・ザ・ワールド紙の編集長レベッカ・ブルックスについて、辞任すべきだと海の彼方でコメントした途端、突っ張っていたマードック氏はすぐさまブルックスをクビにしました。商業大衆巨大メディアが、メディアの質を下げ利己的な権力をふるうままにさせてきた英国のメディア事情とガーディアン紙の記者によるスキャンダル追撃の意義を事情通のギズバード氏が語ってくれます。
(大竹)
*リチャード・ギズバード(Richard Gizbert) アルジャジーラの番組「リスニングポスト」の司会者でロンドン在住のジャーナリスト
字幕翻訳:大竹秀子/全体監修:中野真紀子