特権保護と不正隠しの武器と化した米国の司法 グレン・グリーンウォルド
米国の司法には2層構造が生じていると、政治司法評論家グレン・グリーンウォルドが新著で批判しています。かつて法律とは万人が同じ規則に従うことを保障するものでしたが、「法の下の平等」原則はここ40年ほどで形骸化しており、政財界の人々は法をやぶっても訴追されることがなく法を超越した存在になっています。その被害をかぶるのは一般国民ですが、彼らの人権は守られず、国民の監視に税金をつぎ込む政府に危険視されれば司法手続きも踏まず拉致監禁され、いまや堂々とCIAに暗殺されることさえあります。「法律はもはや機会均等を保障せず、むしろ不平等を正当化して政財界の有力者の特権を守り不正な利得を隠す武器になっている」とグリーンウォルドは言い切ります。法の原則の崩壊と司法の濫用は、どうやら日本だけの現象ではなさそうです。
彼がこの問題を取り上げたきっかけはブッシュ政権が行った令状抜なしの米国市民の会話の盗聴です。これは明白な犯罪であり、それを知りつつ直接協力した通信業界も訴追の対象となりましたが、議会が介入して彼らを免責してしまいました。この背景にはブッシュ政権の下で大胆に進められた政府情報機関の民営化があります。民間企業の免責を推進した中心人物マイク・マコーネル(John Michael "Mike" McCconnell)は海軍情報部出身の米国政府高官で国家安全保障局長官(1992-96)や国家情報長官(2007-09)をつとめましたが、それと同時に世界最大の軍事情報請負企業ブーズ・アレン社に天下りして政府情報機関の仕事をどんどん自分の会社に引き渡していった人物です。同じ人間が政府役職と民間請負企業のあいだを平気で行き来する米国の「回転ドア」システムは、日本の官僚の天下りなどよりずっと露骨な利益誘導ですが、マコーネルの業績はその弊害の代表的な事例でしょう。
一方、米国の秘密機関が海外の民間人に対して行う無法な攻撃や暗殺はいまや米国人も対象です。米国籍を持つアンワル・アウラキや彼の16歳の息子がイエメンでCIAにより暗殺されたことは、米国大統領が戦地でもないところで法的手続きをふまず自国民を殺害する権限を持つようになったことを意味します。これに大きな非難の声があがらないのは、オバマ大統領がブッシュ政権の暴走に比較すれば表向きは理性的で対話姿勢があるように見えるためかもしれませんが、民主党の指導者の自分たちは善良で開明的だから権力の抑制は必要ないという思い込みは危険なものです。こうしたことすべてに主流メディアが異議を唱えていないことも、日本の状況に重なって見えるものがあります(中野真紀子)。
*グレン・グリーンウォールド(Glenn Greenwald)Salon.comの政治、司法関連ブロガー。新著はWith Liberty and Justice for Some: How the Law is Used to Destroy Equality and Protect the Powerful
字幕翻訳:大竹秀子/全体監修:中野真紀子/サイト作成:丸山紀一朗