マイケル・ムーアとナオミ・クライン:怒りから希望へ 「すべての場所を占拠せよ」

2011/11/25(Fri)
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46分

「ウォール街を占拠」運動の功績のひとつは、ことばに力を与えたことです。自分や親しい人の暮らしを苦しめる経済的・社会的な不正への憤りを口にする事が愚痴で終わらず、より良い社会を作る力になると感じた人々は、公共の場で自分の体験や考えを述べ、ひとびとの声に熱心に耳を傾けるようになりました。2011年11月10日という同年における「占拠」運動の絶頂期とも言える時期にネイション誌の主催で開かれたパネルディスカッション「すべての場所を占拠せよ:新しい政治と企業権力に立ち向かう運動の可能性」は、ナオミ・クラインとマイケル・ムーアという、運動を早くから支持してきたとびきり人気者のオピニオン・リーダー2人をパネラーに加え、占拠運動の紆余曲折を記録する画期的なイベントになりました。

この日、ナオミ・クラインはとりわけ喜びにあふれていました。数時間前にホワイトハウスが、カナダからテキサス州のメキシコ湾岸の精油所までタールサンドを輸送する一大プロジェクト「キーストーンXLパイプライン」の建設承認プロセスを停止し、可否判断を少なくとも1年以上延期すると発表していたからです。これでパイプラインはつぶれる!「勝てるチャンスは1%くらい」と思って始め、ホワイトハウス前で逮捕されてもがんばってきたナオミ・クラインにとって、この企業による環境破壊の問題は、ウォール街による国務省の占拠として、「ウォール街を占拠」運動と重なりました。具体的な要求を出さないことで知られる「ウォール街を占拠」運動ではありますが、キーストーンXL反対運動は、「ウォール街を占拠」なしには勝てなかった運動でした。そしてまたキーストーンXLの成功は、「ウォール街を占拠」の勝利でもあったのです。環境と占拠、二つの運動が対話しひとつになり、力を増幅させる。運動は「怒り」の段階から「希望」の段階に進む──ナオミ・クラインはこのとき、そんなビジョンを描いていたのです。

一方、マイケル・ムーアが「ウォール街を占拠」を通して思い描いていたのは、権力の分散化と地域社会の活性化でした。全国各地を周り「たった2人でやっている占拠」も目にしてきたムーアは、歴史をふりかえり、つぶされて終わる運動が数ある中で、不可能にも思われていた運動が成功した例にインスピレーションを得ます。一人の力が生きる時がある。今が、そのとき。各自が真剣に考え、どこもかしこも占拠しようとムーアはよびかけます。さらにベテラン・ジャーナリストのウィリアム・グライダーは、歴史的な見地から、リンク・センは人種的マイノリティの立場に立ち、運動をさらに多角的に見る視点を与えてくれています。

運動の成果を祝し次の一歩を語る主旨のパネルでしたが、「ウォール街を占拠」の当事者としてパネルに加わったオルガナイザーのパトリック・ブルナーの発言は、その後の運動の流れの「不吉」な予言になりました。「成功はわかった。でも運動に問題点があるとしたら、何?」と司会者に聞かれたブルナーは、「リバティ広場だ」と答えました。「広場があるために、人々は、そこに来て安心してしまう。それでは運動が広がらない。広場の外に空間的に広がっていかなければ」。それから、数日後、警察の強制手入れで、「ウォール街を占拠」は、リバティ広場を失い、外に出ることを余儀なくされたのです。

2011年秋の時点での「ウォール街を占拠」運動の高揚の息吹を生き生きと伝えてくれるセグメントです。(大竹秀子)

*ナオミ・クライン(Naomi Klein)カナダのジャーナリストで反グローバリゼーション運動の旗手。活動家。『ショックドクトリン――惨事便乗型資本主義の正体を暴く』の著者。
*マイケル・ムーア(Michael Moore) 映画監督・作家。ゼネラルモーターズによる大量解雇が招く故郷の崩壊をブラックユーモアで描く『ロジャー&ミー』以来、多国籍企業の利害に振り回される米国の政治と経済の病理を、一貫して追及し続ける。最新作は2010年公開の『キャピタリズム~マネーは踊る~』。
*ウィリアム・グライダー(William Greider)、ベテラン・ジャーナリスト。現在は、ネイション誌で国内問題担当。
*リンク・セン(Rinku Sen)人種間の平等と公正(racial justice)運動で指導的な役割を担う。 colorLines.comの発行人。
*パトリック・ブルナー(Patrick Bruner)「ウォール街を占拠せよ」のオルガナイザーの一人。

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字幕翻訳:大竹秀子/全体監修:中野真紀子/サイト作成:丸山紀一朗