暴露 スノーデンが私に託したファイル~(1)国民監視のウラとオモテ

2014/5/13(Tue)
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25分

世界24カ国同時出版で話題を呼んでいるグレン・グリーンウォルドの新著『暴露 スノーデンが私に託したファイル』。エドワード・スノーデンの勇気ある内部告発に協力し、最大限の効果を引き出すことに大きな役割を果たしたジャーナリストが、事件の当事者として証言している決定的な書籍です。事件の重要性を理解するには欠かせません。一時帰国した折にDNスタジオを訪れ、長時間におよぶインタビューで新著の内容を話しました。

2日にわたる放送の最初の部分は、若干テクニカル。Collect It All(すべて収集せよ)という標語に象徴されるように、人間が交わすあらゆる電子通信を収集しようというNSA(国家安全保障局)の欲望と、グローバルな巨大通信傍受システムの広がりとその意味合いについて語ります。

NSAをつき動かしているのは、地球上に監視できない場所があるのが許せないという、この諜報機関特有の強迫観念だとグレンは言います。要は、のぞき見が自己目的化しているオタク系スケベ集団です。

NSAの提携企業リストには80社におよぶ米国のIT大手が並んでいます。プリズムで名前の挙がったサーバー・ソフト系の企業に加え、ヒューレット・パッカードやCiscoなどハードウエア系の企業も多数あいっており、基本的に米国企業のPCやサーバー、周辺機器やソフトにはNSAの監視もおまけでついてくると覚悟しておいたほうがよさそうです。ネットワーク機器メーカーCiscoの例が詳しく紹介されていますが、いざとなれば出荷の途中で梱包ごとかっさらい、監視デバイスを埋め込んだうえで再配達し、何も知らないユーザーのサーバーを監視装置に変えてしまいます。

あきれるほど偽善的なのは、まさにそうした行為を中国政府がやっていると米国政府が言いふらし、中国製品は危険だと思わせる大キャンペーンをやって世界の市場から中国製品を駆逐し、代わりに米国製品を買わせようとしたことです。もちろんNSAの監視も、もれなくついてきます。

もう一つ重要な指摘は、経済スパイ活動がNSAの任務の一つであることです。安全保障とは関係のない商務省や農務省も、NSAの主要な「顧客」のリストに入っています。米国政府は猛然と否定していますが、おびただしい証拠が存在します。ブラジルの石油会社ペトロブラスや、ロシアのガスプロムなど、特にエネルギー関係の企業が標的になりました。米州経済サミットのような国際通商会議でも、米国は他国の交渉戦略を探るために盗聴を行い、ことを有利に運ぼうとしていました。当然ながらTPP交渉でも、日本政府は手の内を読まれていることでしょう。

では各国政府は抗議したでしょうか? スノーデンの告発後の各国の対応を見ると、一般市民の怒りにくらべて政府の反応は鈍く、米国を非難するのには及び腰でした。ブラジルやドイツのように抗議をした国でも、じつは自国民へのNSAの盗聴が明らかになった時点ではきわめて冷淡でした。ルセフやメルケルという政治家個人が監視されたと判って、ようやく厳しい態度に出たのです。自国民のプライバシーに対するこの鈍感さは、どうしたことでしょう?

もしかすると、どの政権も国民監視の欲望をもっているのかもしれません。もちろん民主主義を標榜するなら、主権者である国民を政府が監視してはいけません。でも、他国の政府が自国民を監視して、その情報を回してくれるのだとしたら、どうでしょう? 反対派の動向を知ることができるし、政敵のスキャンダルだってつかめるかもしれない。他国民を監視することは、安全保障を口実にすればいくらでもできます。その先には同盟国による相互監視システムという、悪夢のような現実が待っています。(中野真紀子)

☆ 後半では、エドワード・スノーデンという人物について語ります

*グレン・グリーンウォルド(Glenn Greenwald) ガーディアン紙の一員としてピュリツアー賞を受賞したジャーナリスト。新著『暴露 スノーデンが私に託したファイル』の発売当日に放送された。

Credits: 

字幕翻訳:阿野貴史 / 校正:中野真紀子