テレビに映らないW杯 警察の取り締まり強化と強制退去

2014/6/16(Mon)
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17分

2014年サッカー・ワールドカップ(W杯)開幕日、リオデジャネイロ、サンパウロ、首都ブラジリアなどブラジルの主要都市でデモ隊と警察の衝突が起きました。警察が催涙弾や閃光弾を発射、実弾も使用されたもようです。ルセフ大統領は前日に「デモの権利は尊重するが、暴力行為は一切見逃さない 」と警告していました。背景には混沌としたブラジル経済がありました。ブラジルは1970年代に高度成長時代を迎えましたが、その後、不安定な時期が続きます。2003年のルーラ政権以降は堅調に推移していましたが、2008年のリーマンショックで大きく落ち込みます。しかし2010年に一時的に7%の経済成長率を示し、「エコノミスト」誌は「奇跡の復活」と報じました。ブラジル政府はこの復活を機に、ワールドカップサッカーと夏季オリンピックの両方を開催国し、大国の仲間入りを果たそうとしたのだとデイブ・ザイリンは言います。

しかし開催は決まったものの、ブラジル経済は1~2%台の低調に戻り、2014年度は0.3%が見込まれています。社会福祉の整備が遅れるなか、W杯へは多額の資金が注がれ、オリンピック開催を名目に「ファベラ」と呼ばれる貧困層の集合住宅が解体されました。サンパウロ市のイタケロ地区では退去住民らによるテント村が出現、「民衆のコッパ」と呼ばれています。ブラジルでは2013年にもバス料金値上げをきっかけにしたデモが各地で発生し、ルーラ労働党政権をひきついだルセフ大統領の支持率は下降していました。軍事政権時代、政治犯として3年近く投獄され、拷問の経験を持つルセフ大統領ですが、 ここへきて国民の生活をおきざりにした政策に対する不満が爆発したのです。
2014年10月、ルセフ大統領は決選投票の末、僅差で再選されました。このセグメントは選挙前のものですが、デイブ・ザイリンは、ルセフ大統領がそれでも優位を保っているのは「対立候補がルセフよりも右寄りだからにすぎない」と述べています。

2020年の東京五輪でもその費用の膨張が懸念されています。 現在、国立競技場は、周辺の明治公園、日本青年館、都営霞ケ丘アパート(261戸)などの移転を前提に拡張計画が進められています。東京五輪の開催決定後、渋谷区の野宿者排除がいっそう強化されたとも言われ、福島原発の廃炉もままならない状況で、国民の負担ばかりが増えていくのではないでしょうか。(桜井)

*デイブ・ザイリン(Dave Zirin): ネイション誌のスポーツ・コラムニスト。新著は Brazil’s Dance with the Devil: The World Cup, the Olympics and the Fight for Democracy (『悪魔と踊ったブラジル:ワールドカップ、オリンピック、民主主義への戦い』)

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字幕翻訳:加藤麻子 / 校正:桜井まり子