ミシェル・アレグザンダー:現在の黒人大量収監のルーツは奴隷制度やジム・クロウ法に
☆ この動画は、「学生字幕翻訳コンテスト2015」の特別審査員賞の受賞者の作品です。
アレグザンダー教授へのインタビューの続きです。このセグメントでは、米国における黒人の異常な収監率の実態と、その裏にある歴史的な黒人労働力の搾取の問題に焦点を当てています。
ファーガソンの住民の集団訴訟では、黒人を標的とした刑事司法システムを「現代版の債務者監獄」と呼んでいます。借金が返済できないと投獄され、働くか金を工面するかするまで収監されるという19世紀以前の制度が、現在の米国の刑事司法によって再現されているというのです。ほんの些細な違反をもとに黒人を検挙し、罰金→未納を理由に逮捕→実刑判決という流れでどんどん犯罪者をつくり出し、前科者の烙印を押して普通の生活ができにくくし、結局は刑務所を出たり入ったりの人生に陥れるという、いわば刑事司法による再奴隷化のシステムです。
このシステムのルーツには、奴隷制の時代から継続している黒人労働力の搾取の歴史があるとアレグザンダー教授は指摘します。奴隷制度が廃止された19世紀後半の南部においては、解放された黒人を手当たりしだい捕まえて有罪にし、囚人の身分にしてプランテーションや工場に労働力として貸し出すということが行われてきました。こうした黒人の再奴隷化を可能にした南部諸州の法的な人種差別は20世紀半ばの市民権運動によって撤廃されましたが、現在ふたたび形を変えて復活しています。
ただし現代版の奴隷制度は目に見えにくく、理解するのは難しい。でも、それを抜きには人種問題の前進はないとアレグザンダー教授は言います。米国では最近もまた警官が何の罪もない黒人を殺害する事件が相次ぎ、抗議運動が拡大し、ついには警官に対する襲撃事件も起きています。このインタビューの行われた一年前に比べてさえも、事態はまったく改善されず、むしろ悪化しているといえましょう。インタビューでは映画『グローリー/明日への行進』(字幕では前後の関係から原題の『セルマ』を使っています)への言及がありますが、このような広い支持層を持つ運動を再び構築するためには、現在の刑事司法の問題を直視する勇気が重要です。(中野真紀子)
*ミシェル・アレグザンダー(Michelle Alexander) 公民権弁護士。The New Jim Crow: Mass Incarceration in the Age of Colorblindness(『新たな黒人隔離:カラーブラインド時代の大量投獄』)の著者。オハイオ州立大学法学教授。
字幕翻訳:吉武希恵(上智大学大学院 1年) 学生字幕翻訳コンテスト特別審査員賞受賞 監修:中野真紀子