ベネズエラは本当に「深刻な脅威」か? 米国の新たな制裁措置で緊張が高まる
今月10日夜に開かれた米州首脳会議(SOA)では初めてキューバの参加が実現し、カストロ・オバマの首脳会談が脚光を浴びました。しかし、その影で不協和音を奏でていたのが米国とベネズエラの緊張です。昨年12月以来米・キューバ関係が正常化に向けて迅速に進んだのと同時進行で、米国とベネズエラとの関係は急速に悪化しています。3月にオバマ大統領はベネズエラを「国家安全保障と外交政策を脅かす重大な脅威」に分類し、人権侵害などを理由に7人の政府高官を制裁リストに追加する大統領令を発しました。これに対しマドゥロ大統領は議会に対し、「帝国主義から国を守る」ための権限拡大を要求しました。
オバマ大統領が歴史的なキューバとの関係修復に踏み切ったのは、キューバの参加をみとめない米国の頑なな態度によって米州サミットが紛糾し、このままでは今年のサミット開催も危ぶまれる孤立状態に追い込まれたからです。しかし、キューバを孤立させようとして逆に自らを孤立させたと気づいたのなら、なぜ今またベネズエラに制裁措置をとり、中南米諸国の反発を招くような行動に出るのでしょうか。
さし当たっては、キューバ政策の転換で反発が予想される米国内の右派をなだめるために、代わりの制裁対象を用意したというところでしょうが、もっと深く見れば、米国が米州首脳会議で追求する中南米の自由貿易圏構想に立ちはだかる目の上のたんこぶ、ベネズエラ外しが目的のようです。キューバを抱き込んでベネズエラから引き離し、ベネズエラを孤立させて、中南米における影響力をそぐことを狙っているのだと、ポモナ大学のミゲル・ティンカー・サラス教授は指摘します。
ベネズエラはチャベス大統領の時代に、中南米の地域経済同盟を推進する中心的存在でした。米国の推進する自由貿易協定に対抗して、企業利益よりも地域のニーズを優先させる政策を取り、豊富な石油を安価に供給して中南米の結束を固め、中南米カリブ諸国共同体、UNASUR、ALBAなどの地域経済同盟を作り上げました。おかげで米国が推進する米州自由貿易地域(FTAA)構想は頓挫してしまいましたが、米国はそれに代わる太平洋同盟(PA)やTPPなどの経済協定によって巻き返しを図っています。今回のベネズエラ制裁も、中南米の結束に亀裂を入れるのが狙いのようです。
チャベス亡き後、ベネズエラの経済は石油価格の暴落で危機的状況に陥り、国内の分裂が深刻になっています。石油に依存する経済構造からの脱却が遅れたことが原因です。これに対処するしっかりした施策が不可欠ですが、そんなときに米国は内政干渉ともいえる制裁措置で足をひっぱっています。はたして、そんなことで中南米の結束を破ることができるのか?中南米の人々からは、今の米国はどのように映っているのでしょう。(中野真紀子)
☆4月10日の米州サミット直前の番組はこちらに(字幕はありません)。同じティンカー・サラス教授のインタビューで、最新の状況が聞けます。
キューバが米州サミットに参加 オバマのベネズエラ制裁に中南米諸国からの反対必至
http://democracynow.jp/dailynews/15/04/10/3
☆7分26秒あたりからのサキ国務省報道官とAP記者のやり取りは、さすが米国の政府記者会見。ジャーナリストならこのくらい突っ込んでほしいものです。
*ミゲル・ティンカー・サラス(Miguel Tinker Salas):カリフォルニア州ポモナ大学歴史学教授。著書はThe Enduring Legacy: Oil, Culture, and Society in Venezuela(『不朽の遺産 ベネズエラの石油 文化 社会』)
字幕翻訳: 桜井まり子 / 校正・全体監修:中野真紀子