ハリケーン・マシューと気候変動の関係を報じないメディアに第一級の気候学者が声を上げる

2016/10/6(Thu)
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11分

☆ この動画の字幕は、神戸女学院大学とソルボンヌ大学の両通訳翻訳コースの皆さんが合同授業で取り組んでくださった作品です。

空前の大型ハリケーンの接近で、米国は大騒ぎです。ハリケーン「マシュー」の直撃で、ハイチでは死者26名、ドミニカでは4名が報告されています。その後、勢力を強めて北上し、進路にあたるフロリダなど4つの州では非常事態が宣言され、200万人以上に避難勧告が出ました。メディアは終日ハリケーン速報を出して詳しく報道していますが、次々登場する専門家の解説に「気候変動」という言葉は出てきません。でも、第一級の気象学者マイケル・マン教授によれば、「マシュー」がこれほど猛威を振るうのは、地球温暖化の影響と関係があります。

マン教授の説明によれば、「マシュー」が熱帯低気圧から一気にハリケーンに成長し、翌日には大型ハリケーンに化けた原因は、カリブ海の熱容量が増えていることです。海面温度が過去最高なだけでなく温水層が深海まで広がっているため、ハリケーンが攪拌しても冷水層が浮上することがなく、勢力が弱まらないのだそうです。おまけに、温暖化による海面の上昇で大洪水が起きやすくなっており、ハリケーン被害をさらに大きくします。

それにもかかわらず、メディアが異常気象と気候変動との関係に口を閉ざしているのは、石油会社を中心とする化石燃料業界の長年にわたる情報操作の結果です。業界から献金を受けた政治家、お抱えのテレビ解説者、偽装の名目を掲げた団体などが「気候変動否定派」を形成し、気候変動についての科学研究に疑問を差し挟み、その信憑性を傷つける仕事に励んでいるのです。たとえ気候変動を否定できなくても、科学的な決着はついていないという印象を作り出せば、彼らの目的は達成されます。ホッケースティック論争に引きずり込まれて苦い経験をさせられた当事者の指摘ですから、これは傾聴に値しますね。(中野真紀子)

*オリバー・ミルマン(Oliver Milman):ガーディアン紙(米国版)の環境問題担当記者。最新記事は「地球温暖化と海面上昇に伴いハリケーン災害が深刻化 専門家が警告」

*マイケル・マン(Michael Mann):ペンシルバニア州立大学の大気科学教授。最新の著作は政治風刺画家トム・トールズとの共著The Madhouse Effect: How Climate Change Denial Is Threatening Our Planet, Destroying Our Politics, and Driving Us Crazy(『マッドハウス効果──気候変動の否定が地球を脅かし、政治を壊し、我々を惑わせる』)です。他の著書には、The Hockey Stick and the Climate Wars: Dispatches from the Front Lines(『ホッケースティック曲線と気候戦争 最前線からの報告』)があります。

Credits: 

字幕翻訳:神戸女学院大学大学院文学研究科通訳・翻訳コース + ソルボンヌ・ヌーヴェール=パリ第三大学/通訳翻訳高等学院 (ESIT)
全体監修:中野真紀子