核兵器禁止条約に向けた国連交渉をボイコットし 1兆ドルかけて核軍備を刷新する米国
2017年7月、核兵器の全廃と根絶をめざす歴史的な核兵器禁止条約が国連加盟193カ国のうち122カ国の賛成で採択されました。しかし、主要核保有国はすべて棄権し、核の傘の下にあるNATO加盟国や日本も棄権しました。しかし日本は唯一の被爆国であり他の同盟国とは立場が違います。条約交渉会議で生々しく苦痛を訴えたヒバクシャを裏切る日本政府への憤りが、広島や長崎の平和記念式典における安倍総理へのブーイングと早期の条約加盟を強く求める要望に反映されています。条約の草案を作るための交渉会議が行われていた今年3月のインタビューで、条約の意義を振り返ってみましょう。
条約制定に向けた交渉が動き出した背景には、世界各地の平和運動やコスタリカやマレーシアを中心とする非核保有国の長年にわたる努力の積み重ねによる連帯の広がりがありました。2016年国連総会で123カ国の支持を得て条約制定の交渉が開始されました。米国はこの動きに強い危機感を持ち、同盟諸国に圧力をかけて妨害していました。その米国はオバマ政権の時代から一兆ドルの予算を投じた核軍備の刷新を計画しています。100年先まで見据えた既存設備の最新鋭化をうたっていますが、それはとりもなおさず100年先まで核兵器が存続することを示唆します。そのような未来を阻止するために、条約制定に向けた動きに拍車がかかったと、ゲストのジア・ミアンは語っています。
核兵器廃絶は第二次大戦後の国連の最初の課題であったにもかかわらず、70年経っても実現しませんでした。核兵器を最初に開発し、実際に行使した米国が、その軍事的な優位を決して譲ろうとしないからです。他国が核武装するのは必然と考える米国は、これを牽制するために、核兵器の威力と数量で他国を圧倒し、いつでも行使する意思を示すことで威嚇する手法を取ってきました。こんな国が仕切る核軍縮交渉をいくら重ねても、核兵器の廃絶など実現するはずがありません。米国は核兵器禁止条約をボイコットする理由として、核武装は自国や同盟国を守るための基本的な権利であると主張しますが、他国には同じ権利を認めないのですからまったく説得力がありません。
その米国の腰巾着に成り果てた日本の政府は、被爆国としての立場もかえりみずボイコットに同調するという恥ずべき態度です。むしろ、トランプ大統領がちらつかせたように、米国の軍事負担を軽減するために日本も自衛力を高め、東アジアの軍拡競争の一翼を担うという方向に走っており、あわよくば核武装さえ狙えると思わされているかもしれません。
もちろん、多くの国民はそんなことは求めていません。国防のために大量殺りくもやむなしとの発想が導く野蛮で恐ろしい未来には、日本のみならず、世界の大多数が反対しています。強大な武力を持つ者ではなく、この世界の多数を占める人々が決める未来を象徴するのが核兵器禁止条約といえるでしょう。(中野真紀子)
*ジア・ミアン(Zia Mian)原子力が専門の物理学者で核軍縮の活動家。プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン・スクール(公共政策大学院)の「科学とグローバル安全保障プログラム」 の共同責任者。共著にUnmaking the Bomb: A Fissile Material Approach to Nuclear Disarmament and Nonproliferation(『爆弾の廃止:核燃料処理に着目した核兵器廃絶と不拡散に向けて』)
字幕翻訳:デモクラシー防衛同盟
千野菜保子・仲山さくら・水谷香恵・山下仁美・山田奈津美・岩川明子
全体監修:中野真紀子