「ヘイト」後の人生:ネオナチ集団からの離脱を支援する非営利組織にトランプ政権は補助金を取り消す
今年8月バージニア州シャーロッツビルに白人至上主義者が大結集し、戒厳令が出される混乱の中で死者が出ました。シャーロッツビル市では、奴隷制維持のため南北戦争を戦った南部連合の司令官ロバート・リー将軍の像を市の公園から撤去する計画でしたが、撤去に反対して全米各地からネオナチ、白人ナショナリスト、クー・クラックス・クラン(KKK)などが集まりました。このデモに抗議していた群衆の中に白人至上主義者の車が突っ込み、一名が死亡、数名が負傷しました。犠牲者の母親は追悼集会で、娘の死を無駄にしないでと悲痛な訴えを行いました。ヘイトに基づく犯行の背景に何があるのか?元ネオナチで、今はヘイト集団からの離脱を支援する活動を行っている人物と、ネオナチ極右団体メンバーの親族をゲストに迎え、ヘイトに走る人々の心情や病理、更正への道について話し合います。
元ネオナチ団体のリーダーであったクリスチャン・ピッチョリーニ氏は、自らの経験に照らし、ヘイトに走る動機は疎外感であると指摘します。両親はイタリア移民で人種差別的な家庭環境ではなかったのに、ただ自分の居場所と力の幻想を求めてネオナチ集団にのめり込んでいったのだと。それゆえ親族やコミュニティが結束して排除することは、力と居場所を求める彼らには逆効果であると彼は言います。また多文化共生という米国本来の姿を求めて戦い、犠牲になった女性への追悼集会に多数の人々が参加したという事実に希望を見ると語ります。
ピッチョリーニ氏の非営利組織「ライフ・アフター・ヘイト」はヘイトからの脱却を支援する活動を行い、政府から助成金が降りる予定でしたが、トランプ政権に交代すると、助成リストから外されてしまいました。リストを発表した国土安全保障省の政策顧問キャサリン・ゴルカの夫は、大統領顧問のセバスチャン・ゴルカです。彼はハンガリーの極右組織ビテージ・ランドの団員と噂される筋金入りのネオナチです。このような人物を抱えるトランプ政権の下で、極右白人至上主義者たちは大いに勢いづき、増長しています。シャーロッツビルはそれを象徴するような事件でしたが、「双方が悪い」とするトランプの発言はますます対立をあおり、分断を増大させるでしょう。
日本でも対話なんて面倒とばかりおぞましいヘイトスピーチが横行しています。昨年施行されたヘイトスピーチ規制法も努力義務ばかりで実効性に欠け、表現の自由を阻害するという何とも理解不能な言説の世界に入っています。挙句は偏見の自由もありという主張までまかり通るありさま。力は正義、勝てば官軍方式が幅を利かすようになってしまったわが国も、数や力を頼むのでなく、個を尊重する意思が問われています。シャーロッツビル事件の犠牲者の母親の、「見ないふりをせず事実を直視し、立ち向かって」というメッセージにきちんと耳を傾けるべきでしょう。(岩川明子)
*クリスチャン・ピチョリーニ(Christian Picciolini):ヘイト団体からの離脱を支援するNPO「ライフ・アフター・ヘイト」の共同設立者。元ネオナチスキンヘッド団体のリーダー
*ジェイコブ・スコット(Jacob Scott):シャーロッツビルの右翼結集大会に参加して身内から絶縁された白人ナショナリスト、ピーター・テフトの甥。
字幕翻訳:デモクラシー防衛同盟
千野菜保子・仲山さくら・水谷香恵・山下仁美・山田奈津美・岩川明子
全体監修:中野真紀子