気候変動で世界の寄生虫の3分の1に絶滅のおそれ 影響は甚大と米科学者

2017/9/11(Mon)
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「現在進行中の気候変動によって、2070年までに地球上の寄生生物の約3分の1が絶滅する」との可能性を指摘した論文、"Parasite biodiversity faces extinction and redistribution in a changing climate"(気候変動により絶滅と分布の変化を迫られる寄生生物の多様性)が、査読付きの科学論文集Science Advancesに掲載されました。この論文の筆頭著者で、カリフォルニア大学バークレー校環境科学・政策・マネジメント学部の博士号候補生のコリン・カールソン氏、そして、ピュリッツァー賞を受賞した『6度目の大絶滅』の著者でジャーナリストのエリザベス・コルバート氏が今回のゲストです。カールソン氏は、12歳で大学に入学し、16歳までに生態学や生物学の学士号だけでなく修士号まで取得しています。2011年には、「人類史上最も聡明な16人の子ども」にモーツァルトやピカソらと共に名を連ねました。このインタビューが行われた当時は21歳です。

カールソン氏は、気候変動の影響による大型動物の絶滅ばかりに注目が集まる状況に懸念を示し、そうした大型動物の生存を支える生態系のバランスを維持しているのは、実は寄生虫であることを指摘します。その上で、そうした寄生虫が大量に絶滅することによって生態系のバランスが崩れた場合、例えば、ヒトに対する新たな感染症が発生する可能性などが考えられると警告します。コルバート氏も、「大量絶滅」は、寄生虫などの微生物のみに限定されるものでなく、連鎖的にヒトを含む多様な種の範囲に及ぶもので、人為的な要因によって私たちはその「大量絶滅」の一途にあると警鐘を鳴らします。

また、両氏は、このように地球規模での危機的な状況が科学的に示されているにも関わらず、米国の現政権がこの問題に無関心どころか、まるで敵視するかのような姿勢を取っていることに懸念を示します。トランプ大統領は、これまでトップクラスの科学者が歴任してきた米航空宇宙局(NASA)の長官のポストに、科学的な素養が無い一方で気候変動に否定的な立場を取る議員を指名したり、科学研究の予算を大幅に削減しています。カールソン氏の専門である、生物の分布状況の変化を調べる研究においては、過去から蓄積されてきたデータと、そうしたデータを適切に保管する博物館や研究所が非常に重要ですが、こうしたところにも予算削減の影響が出てくるのではないか心配されます。

以上のように、米国の科学界にとっては冬の時代とも言うべき、厳しい状況が続いていますが、カールソン氏は、見通しは必ずしも暗くないと言います。むしろこのような逆境の中でこそ、科学者たちは研究心を奮い立たせて活躍できる、と非常に頼もしいコメントを残しています。(千野菜保子)

*コリン・カールソン(Colin Carlson): 2070年までに地球上の寄生生物の約3分の1が絶滅する可能性を指摘した論文、"Parasite biodiversity faces extinction and redistribution in a changing climate"(寄生生物の多様性は気候変動により大量絶滅と分布の変化に直面)の筆頭執筆者。カリフォルニア大学バークレー校で環境化学・政策・運営学の博士論文準備中。
*エリザベス・コルバート(Elizabeth Kolbert): 雑誌ニューヨーカーの記者で、著書『6度目の大絶滅』でピュリッツァー賞を受賞。

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字幕翻訳:デモクラシー防衛同盟
千野菜保子・仲山さくら・水谷香恵・山下仁美・山田奈津美・岩川明子
全体監修:中野真紀子