東京五輪開幕 コロナと酷暑で矛盾が煮詰まる利権の祭典
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ついに始まってしまった東京オリンピック。テレビはメダル報道一色ですが、コロナ感染の激増と医療現場はひっ迫は隠しようがなく、IOCからは「パラレルワールド」発言も飛び出す始末。7月23日の開会式にぶつけた放送では、現地の抗議行動の様子と国内の反感を伝えると共に、それをねじ伏せて開催を強行する五輪システムそのものの問題を論じています。
日本国内の反感の高まりは、トヨタが五輪関連のコマーシャルをすべて取りやめたことに表れています。トヨタは莫大な協賛金を支払って世界中で五輪協賛を宣伝できるTOPパートナーですが、もはや五輪との関係づけはマイナスと判断したものです。国民の大多数が反対し、国内限定の協賛企業も及び腰なのが実情。こんな中で開催ごり押しするなんて、とてもこの秋に総選挙を迎える政権とは思えませんが、じつは彼らには中止決定権がないのです。
五輪中止の決定権は国際オリンピック委員会(IOC)にあり、開催地の政府はお願いするしかないという契約。そのIOCは、収入の7割以上が放送権の販売なので、観客がいなくても構わない。もともと究極のテレビ興行イベントなのです。IOCは準国家扱いの組織ですが、その財源を握っているのはNBCのような巨大メディアコングロマリットやコカ・コーラのような多国籍企業です。開催国の主権を制限する傲慢な振る舞いは、巨大グローバル企業がGATTに始まる非民主的な貿易協定を各国政府や国民に押し付けてきたのと同じ臭いを漂わせています。バッハ会長の振る舞いが反感を買うのは本人の性格だけではないようです。この点では、東京五輪が終わった後も、日本の誘致にからまる金の流れや電通の仕切りをもっと深く追及する必要がありますね。
今後に向けて、希望の持てる話題がアスリートたちの団結です。IOCや組織委員会は、「安心安全」、「アスリート・ファースト」を念仏のように唱えていますが、その一方で、大会参加選手たちに対しては、コロナや酷暑で死んでも主催者の責任は問いませんという免責同意書に署名させています。競技者たちに大きなリスクを負わせておきながら、収益配分はけた外れにすくないのが五輪の特徴です。NBAやNFLなどでは興行収益の45%から60%が選手の取り分になりますが、五輪はたった4%程度なのです。 このような搾取構造を是正し、運営の改善と公正を求める、「グローバル・アスリート」のような団体が選手主導で複数立ち上がっているようです。そういえば、女子アスリートのビキニ拒否とか、競技の前後にプロテストの意思表示をする権利とか、アスリートたちの自律的な行動が、スポーツ界全体で目立ってきました。
最後に、2028年に予定されるロス五輪の話題も重要です。すでに反対運動が立ち上がっており、その核になっているのはロサンゼルスで住宅と野宿者の問題にかかわってきた人々です。ロサンゼルスでも五輪招致は二度目になりますが、ノスタルジーばかりの日本とは違い、前回の苦い経験に学んでいるようです。1984年の五輪には治安対策のために巨額の投資がなされましたが、その治安装置が五輪後はそのまま警察の重装備になり、麻薬戦争の激化を招いたことが指摘されています。
東京では大会が始まっても反対運動は続いています。がんばって次の運動につなげて、五輪の息の根を止めたいものです。(中野真紀子)
•ジュールズ・ボイコフ(Jules Boykoff):米国の五輪代表チームで活躍した元サッカー選手。オリンピック関連の4冊の著作がある。 •井谷聡子(Satoko Itani):関西大学准教授 スポーツ、ジェンダー。セクシャリティ研究。
字幕翻訳:中野真紀子