イスラム国で斬首されたジェームス・フォーリーの本当の声
イスラム国で斬首されたジェームス・フォーリーの本当の声
センセーショナルな報道でかき消された戦場ジャーナリストの人となり、戦争についての考え方を示す生の映像
昨年の重大事件の一つはイスラム国の出現と米国のイラクでの軍事行動の再開でした。オバマ大統領がイラクへの米軍出動を決意した直接のきっかけは、人質になっていた2人の米国人ジャーナリストがイスラム国によって斬首されたことでした。ショッキングな処刑ビデオがネットに公開され、その非道ぶりはオバマ大統領が「こんな極悪な集団を放置しておくわけにはいかない」と国民に訴えるのに格好の材料を提供しました。
あまりに見事にはまっていたので、ビデオについては様々な憶測が飛び交い、しまいには処刑は芝居だとまで言い出す人たちも現れました。しかし、しかし亡くなったのは現実の人間です。遺された人々もいるというのに、そのような無責任な憶測は慎むべきでしょう。どんな考えの持ち主で、なぜイラクに行ったのか?個人の悲劇に目をやらず、犠牲者を記号のようにしか扱わないのでは、オバマと同じ穴のムジナになっちゃいます。
ではオバマの発言はどこが問題なのか?これについては、最初の犠牲者ジェイムズ・フォーリーと生前につき合いのあった映像作家のハスケル・ウェクスラーが鋭く批判しています。2012年のシカゴNATOサミットの折に撮影された故人の映像を公表し、「大統領がイスラム国壊滅という軍事政策を遂行するために2人のジャーナリストの名前を使うのは、ジェイムズ・フォーリーに対する侮辱であり、多くのアメリカ人の知性に対する侮辱だ」と怒りをこめて語っています。戦争が人間を人間として扱わなくなることについて話すフォーリー記者が、まさにそのとおりの将棋の駒として自国政府によって扱われ、戦場ジャーナリストとして伝えようとしていたものとは真逆の政策が、彼の処刑を口実に推進されようとしているからです。
ウェクスラーはアカデミー賞に輝く伝説のカメラマンですが、数々の名作劇映画の映像監督をつとめるかたわらで、自らの監督作品として政治色濃いドキュメンタリー作品を作っています。特に有名なのは『アメリカを斬る』(原題はMedium Cool)という、1968年の民主党全国大会でシカゴに結集したベトナム反戦運動家たちへの暴力的な弾圧を扱った作品です。同じシカゴで2012年に行われたNATOサミットでもイラク戦争に反対する人々が抗議運動を展開しており、フォーリー記者も反戦運動の取材に来ていました。ベトナム戦争からイラク戦争にまたがる米国の反戦運動と政府側の対応の歴史が、ここに交錯しています。
イラク戦争いらい現地取材中のジャーナリストが犠牲になるケースが激増しています。昨年12月に発表された「国境なき記者団」の年次報告書によれば、この1年間で殺害された報道関係者の数は66人、2005年以降に殺害されたジャーナリストの総数は720人となりました。特に紛争地帯で取材するジャーナリストの誘拐の件数が増加しているようです。軍人が捕虜になれば戦争捕虜として扱われ国家も責任を引き受けますが、民間人であるジャーナリストにそのような保護はなく、むしろジャーナリストが標的にされ、迫害されているようにさえ感じられます。米国はテロリストとは交渉しないという立場で身代金の支払いを拒否する政策をとっていますが、それが処刑を招いているとも考えられます。軍の保護を受けない戦争取材は、ますます危険なものになっていくようです。(中野真紀子)
この動画は朝日カルチャーセンターの講座で字幕をつける予定です。講座のお申し込みは、こちらから
www.democracynow.org/2014/9/12/james_foley_on_the_dehumanization_of