「3兆ドルの戦争」スティグリッツとビルムズがイラク侵攻と駐留経費の真実を語る

2008/2/29(Fri)
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ブッシュ政権はイラク戦争が米国の経済に悪影響を与えているという批判を否定していますが、米国きっての経済学者は、この戦争の経費は控えめに見積もってもすでに3兆ドルに達していると推定しています。ノーベル経済学賞受賞者で元世界銀行首席エコノミストのジョセフ・スティグリッツ教授とハーバード大学のリンダ・ビルムズ教授の共著による『世界を不幸にするアメリカの戦争経済 イラク戦費3兆ドルの衝撃』で論じられている数字です。この2人の経済学者は、ブッシュ政権が常に戦費を過少に発表してきたと言います。さらには、国民から隠している非公表のウラ収支報告さえあるとさえ主張します。出版に際して、初めて行われた全国放送の著者インタビューをおとどけします。

イラク戦争の戦費を押し上げている要因のひとつとして、スティグリッツらは戦争と占領の民営化をあげています。米軍兵士1人あたりの政府支出は4万ドルなのに対し、民間の備会社職員1人あたりの政府支出はその10倍の40万ドルに上るといいます。警備会社社員たちの保険料も、死亡・傷病手当も政府もちだ。また米軍でも、心身に傷を負って帰還した復員兵たちのケアに要するコストは膨大なものになると、彼らは指摘します。

また医療技術の向上のおかげで、ベトナム戦争までは負傷兵と戦死者の比率は2対1から3対1だったのに、イラク戦争では戦闘だけで7対1、他の要因や病気も含めると15対1に跳ね上がるそうです。多数の傷痍軍人の生涯ケアは長期コストになります。国防総省が発表している死傷者の数字は、戦闘中の負傷兵の数にすぎず、戦闘以外の事故や民間人の負傷、また劣化ウランなど未知の汚染による影響などは含まれていません。しかも公表されている数字は実際の半分だというのです。

米政府はあの手この手で表面上の出費を少なく見せようとしていますが、そのことが長期的に見た費用をさらに押し上げており、将来の国民の負担となっていきます。おまけに、ブッシュ政権は、戦争を始めると同時に減税を行うという、前代未聞の政策をとりました。つまり戦争はすべて借金でまかなうということです。それによって戦争による経済負担がないかのように見せかけているのですが、もともと借金体質の米国ですから、債務の4割は外国からのものです。今後、米国民は外国に利子を支払い続けていくことになります。

戦争のおかげで、米国経済はほぼ確実に不況に向かっているとスティグリッツは云います。不況による経済手的な損失は、「3兆ドル」の戦費予想には含まれていません。(中野)

参考
『世界を不幸にするアメリカの戦争経済 イラク戦費3兆ドルの衝撃』徳間書店

ジョセフ・スティグリッツ(Joseph Stiglitz) 2001年のノーベル経済学賞を受けた影響力のある経済学者で現在コロンビア大学教授。クリントン大統領の経済諮問委員会の長や世界銀行の首席エコノミストをつとめたこともあり、活発に政策提言をしている。グローバリゼーションのもたらした格差社会を批判した『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』はベストセラーになった。

リンダ・ビルメス(Linda Bilmes) ハーバード大学ケネディ行政学大学院で財政学を教える。スティグリッツとの共著でThe Three Trillion Dollar War: The True Cost of the Iraq Conflict.(『世界を不幸にするアメリカの戦争経済 イラク戦費3兆ドルの衝撃』)を最近出版した。

Credits: 

翻訳:田中泉 桜井まり子/ 校正:関房江
全体構成:中野真紀子