ベトナム戦争の総指揮者ロバート・マクナマラ
2009年7月6日、ロバート・マクナマラが93歳で死去しました。1960年代にケネディとジョンソンの民主党政権で国防長官をつとめたマクナマラは、インドシナにおいて、ベトナムで300万人以上、カンボジアとラオスで100万人以上、そして米兵5万8千人の命を奪ったベトナム戦争の遂行に中心的な役割を果たしました。
フォード社の社長に就任したばかりのところを引き抜かれて政権入りしたマクナマラは、「ベスト&ブライテスト」と呼ばれたケネディ政権のエリート集団、超優秀で自信に満ちた高官の典型でした。ケネディ暗殺後、ジョンソン大統領のもとでベトナム戦争の拡大を推進しますが、ある時点から戦争の見通しに疑念を抱くようになりました。戦線縮小の提言が大統領に受け入れられず1968年に国防長官を辞任して、世銀総裁に就任します。後年に発表したメモワールの中で、ベトナム戦争を拡大し泥沼化させたことは誤りであったと述べ、自らの責任を率直に認めたとして話題になりました。しかし、それは本当に十分な反省だったと言えるのでしょうか?
番組では、二人の歴史家ハワード・ジンとマリリン・ヤングNY大教授を迎え、ロバート・マクナマラの良心の葛藤と限界、この優秀で複雑な人物の人生の軌跡が後代に遺した教訓を考えます。また1967年に特派員としてベトナム戦争を取材し、国防総省でマクナマラ氏に極秘会見したジョナサン・シェルからも話を聞きます。(中野)
*ハワード・ジン Howard Zinn 歴史家。古典的名作『民衆のアメリカ史』をはじめ、多数の著作がある
*マリリン・ヤング Marilyn Young ニューヨーク大学の歴史学教授で専門はベトナム史。著書には、The Vietnam Wars: 1945-1990 (『ベトナムの戦争 1945-90年』)や Bombing Civilians: A Twentieth-Century History(『民間人の爆撃 20世紀の歴史』)などがある。
*ジョナサン・シェル Jonathan Schell 核兵器廃絶運動で有名なネイション・インスティテュートの研究員。ベトナム戦争中の1966年から67年にかけては、ニューヨーカー誌の南ベトナム特派員を務めた。『地球の運命』、『核のボタンに手をかけた男たち』などの著書が邦訳されている。
翻訳:田中泉/字幕:斉木裕明
全体監修:中野真紀子・高田絵里