DREAM法は数百万の若年不法滞在者の福音か、それとも新兵徴募装置か?
2001年に米上院に提出されてから10年、幾度となく審議されながら成立に至っていない通称ドリーム法案(The DREAM Act)について、2人の若者が討論します。ドリーム法とは、正規の書類をもたずに家族と共に米国に16歳未満で移民し、米国で教育を受けた若者に、条件を満たせば永住権を得ることを可能にする法案です。ドリーム法を推進する立場からはフロリダ州のギャビー・パチェコさん、ドリーム法が求める条件に異議を申し立てる立場からは、反戦イラク帰還兵の会元会長のカミロ・メヒアさんです。
ギャビーさんは「米国で育ち、米国人として高校を卒業した移民家庭の多くの若者が、居住権がないことを理由に大学進学や就職ができないでいます。市民権への道を開くドリーム法の成立を、私たちは10年間も待ち続けています」と訴えます。カミロさんは「ドリーム法では2年間の大学教育か兵役が条件になっていますが、在留資格の無い移民の高校卒業生の多くは語学力不足や経済的理由で大学進学が難しく、それらの特典がついている兵役を選ぶことになり、公平な選択肢とは言えません。また兵役は2年となっていますが、入隊すると8年間は軍に拘束されます。軍の援助は簡単に得られるのに対し進学には障害がたちはだかるとすれば、ドリーム法は新兵募集の1つでしかありません」と懸念を表明します。
ドリーム法案は2010年12月、再度議会に提出されましたが、成立には至りませんでした。これに先立ち2010年4月には、アリゾナ州であからさまに移民を排斥する法律が通過しており、同年11月の中間選挙ではティー・パーティ派の台頭と共に白人至上主義、排外主義が加速する傾向を見せ、移民への圧力が強まりました。そうした苦しい立場に置かれた移民の若者のリクルートを目的に軍が推奨するドリーム法は、本当に移民の若者全体にとって福音になるのでしょうか。(桜井)
ガブリエル・パチェコ(GABRIELA PACHECO) エクアドル生まれ、米国フロリダ州の移民家庭で育つ。移民家庭の子女に市民権獲得の道を開くといわれるドリーム法成立を推進、2010年、学生らと共にマイアミから首都ワシントンまで1500マイルのロング・ウォークを行なった。
カミロ・メヒア(Camilo Mejia) 反戦イラク帰還兵の会元会長。イラクに従軍したのち、再度の配属を拒否して禁固1年の刑を受けた。国際アムネスティは良心の囚人と認定。
字幕翻訳:川上奈緒子/校正:桜井まり子/全体監修:中野真紀子