ナショナル・セキュリティー・レター(国家安全保障書簡)の口外禁止規定を暴露した裁判闘争

2013/8/13(Tue)
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8月に入って、米国では機密保全を売りにするEメール・サービスが政府による顧客情報の収集に抗議して相次いでサービスを終了するという事件がありました。Lavabitはエドワード・スノーデン氏がロシアとの交渉に使っていたとされる暗号メール・サービスです。米当局との交渉が続く中での突然のサービス終了ですから、どんな関連があるのかと想像をかきたてます。でもオーナーのレーダー・レビソン氏は、サービス終了の説明にあたってスノーデン関連のことには触れたがりません。彼のことばは「米国人に対する犯罪に加担するよりは、10年近い努力の結晶を終了させる方を選んだ」と、きわめて漠然としています。具体的な事情を他の人に説明することは「米国の議会が通過させた法律によって禁じられている」からだそうです。Lavabitの突然死を見て、「米国に足場を持つ会社には決して機密データを預けてはいけない」という現状への忠告を読み取ってほしい、としか言えません。

この呼びかけに応えるように、数時間後にはメリーランド本社のSilent Ciecleが秘密メール・サービスを終了すると発表しました。自分たちは政府から情報提供を迫られたわけではないけれど、先手を打っていまのうちに手元のデータを処分すると言っています。Lavabitがサービス終了という捨て身の戦術によって警告した危険を、他のプロバイダも真剣に受け止めてたということです。もはや米国ではもはや安全な通信など不可能であり、プライバシーなんてものは死語になるのかもしれません。

レビソン氏が捨て身の警告に追い込まれたのは、「事情を話すことが禁じられている」からです。デモクラシー・ナウに登場したときも、うっかり口をすべらせないように弁護士を同伴していました。彼がはっきり名指すことすらできないものの正体を知るためには、別のゲストが必要でした。ナショナル・セキュリティ・レター(NS書簡)の口外禁止規定をめぐって7年にわたり裁判で闘ったニコラス・メリルです。

NS書簡というのは、行政機関(主にFBI)が国家安全保障に関連する情報の提出を求めて発行する書状です。裁判所を通さないのでSubpoena(召喚状)とは区別されますが、役割は似たようなものです。もとはテロリストやスパイの容疑のかかった人物に関するデータ収集が目的だったのですが、9.11テロ事件を受けた「愛国法」によって制限が大幅に緩和されることになりました。愛国法による行き過ぎた政府権限の拡大のなかでも、「NS書簡」の権限拡大は特に危険だと人権団体は指摘します。もはや全ての米国市民が監視の対象になりうるからです。FBIは通信事業者やプロバイダに「NS書簡」を送り、一般市民の私的な通信やネット利用の状況やバンキング記録などあらゆる個人情報を要求できます。でも、そこには恣意的な行使を妨げるようなシステムがありません。裁判所の承認も要らないし、内部の監督システムもない。つまり、やりたい放題です。

濫用を許す「きわめつけ」が「口外禁止」の条項です。「NS書簡」を受け取った者は、そのことを公言することはおろか、同僚や友人や家族さえにも教えてはいけないのです。これでは弁護士に相談することさえできません。おかげで、どれだけ多数の事業者が「NS書簡」を受け取っているのか、実態は想像するしかありません。たちが悪いことに、個人情報を求められた当の本人にも知らせることができません。レビソン氏が「米国市民に対する犯罪に加担する」と言うのは、このことでしょう。自分に関する個人情報が第三者(プロバイダ)から当局に収集されていても、ユーザーにはそれを知る術がないのです。それが不当な情報収集であったとしても、収集された事実が証明できなければ、不服を申し立てることもできません。

そんな秘密の捜査手法なら、どうしてその存在が明るみに出たのか?ありがたいことに、こうした当局の脅しに逆らって、果敢に裁判闘争を試みたプロバイダーがいたのです。2004年にCalyx(ケイラックス)というインターネット・プロバイダを運営していたニコラス・メリル氏です。メリル氏があえて裁判所に異議を申立て、長期の闘いを行った経緯をご覧ください。「口外禁止」を盾にするFBIの戦術に対抗し、初めて法廷に問題を持ち込みました。ACLU(アメリカ自由人権協会)のような人権団体の支援を受けて、匿名のまま6年にわたる法廷闘争を続けた結果、ようやく2010年に政府と和解が成立したそうです。メリル氏へのNSLは取り下げられ、この事件について大っぴらに議論することが可能になったのです。(中野真紀子)

*ニコラス・メリル(Nicholas Merrill) :Calyx 研究所の事務局長。2004年にNS書簡を受け取ったが、そのことについての口外禁止は憲法違反であるとして、アメリカ自由人権協会(ACLU)などとともに匿名で法廷闘争を行った。2010年にFBIと和解が成立し、ようやく原告として名乗り出ることができるようになった。

*レーダー・レビソン(Ladar Levison):ラバビットを創設し運営していた。

*ジェシー・ビナール(Jesse Binnall): レビソンの弁護士

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字幕翻訳:中野真紀子