NAFTAの20年で雇用流出 所得格差 環境衛生基準の劣化 なぜ阻止できなかったのか?
クラウドファンディングで字幕をつけた長編の第二弾。ちょうど一年前に放送されたNAFTA(北米自由貿易協定)20周年の番組です。前半はロリ・ウォラックさんの分析、後半はメキシコのサパティスタ蜂起とその後を追います。
NAFTAは米国、メキシコ、カナダの3国間に結ばれた多国間自由貿易協定で、現在交渉中のTPP(環太平洋経済協定)やTTIP(環大西洋貿易投資連携協定 別名TAFTA)の原型といえるものです。締結に至るまでには、その経済的、社会的な影響をめぐって賛否両論の大論争が起こりましたが、多くの異論を押し切る形で締結され、1994年1月1日に施行されました。
協定に署名したビル・クリントン大統領は、世界最大の経済圏の出現による世界的な経済成長の幕開けを宣言し、これによって雇用が増加し賃金は上昇、環境や保健衛生の安全基準も改善するというバラ色の未来を約束しました。でも実際には、企業が低賃金のメキシコ労働者を求めたため、米国の雇用は何百万も減少しました。一方メキシコではNAFTAにより貧困に拍車がかかり、何百万人ものメキシコ人が仕事を求めて米国に移住を強いられました。
このような惨憺たる結果は十分に予想されており、NAFTAの締結前から強硬な反対論が渦巻いていました。それにもかかわらず協定が成立してしまったのは何故なのか?これを検証することが、「NAFTAの強化版」(NAFTA on steroids)といわれるTPPやTTIPを阻止するために重要なヒントを与えてくれます。ロリ・ウォラック氏によれば、鍵をにぎるのはオバマ大統領が議会に要請しているファースト・トラック(貿易促進権限)です。
米国では貿易に関する協定は議会の専権事項ですが、その権限を行政府(大統領)に委譲するのがファスト・トラックです。これが、とんでもない貿易協定を可能にさせるしかけは、番組をご覧ください。
これは一年前の話ですが、じつは今年こそが正念場です。米国は中間選挙で上下両院とも共和党が多数派となってしまいました。企業利益を代表する共和党ですから、このフスト・トラック権限を喜んで大統領に与えることになるのでしょうか?実は共和党にもファスト・トラックに反対の立場の議員たちもいますから、決着がついたわけではありません。年明けの米国議会の動向が注目されます。(中野真紀子)
☆ このセグメントはクラウドファンディングが成立したおかげで字幕をつけることができました。スポンサーになっていただいた皆さんに、心から感謝を申し上げます。
ロリ・ウォラック(Lori Wallach)パブリック・シチズンのグローバル・トレード・ウォッチ代表。NAFTA締結から20年の現状を検証する報告書"NAFTA at 20"を発表しています。
字幕翻訳:永井愛弓 / 校正:中野真紀子