グアムで米軍駐留への抵抗が拡大 米朝間の挑発と瀬戸際外交でミサイル着弾の危機
米朝関係は非難と威嚇の応酬を繰り返し、ますます緊張が高まっています。8月、トランプ大統領は核戦争を示唆する威嚇をツイッターに投稿し、北朝鮮は中距離弾道ミサイル「火星12」をグアム近海に発射する計画があることを明らかにしました。これを受けてグアムでは現地紙がミサイルの到達時間を示す「14分!」という見出しをトップに掲げ、一気に緊張が高まりました。グアムには朝鮮半島有事の際に戦略爆撃機が出撃する米軍の基地があります。グアム大教授でグアム平和正義連合会長、脱植民地化委員会メンバーのリサリンダ・ナティビダド氏とアメリカン大学文化j人類学准教授で『 米軍基地がやってきたこと』の著者ディビッド・バイン氏を迎え、現地グアムの状況、基地に対する住民感情、在外米軍基地が抱える弊害について話を聞きます。
ナティビダド氏はグアムで数十年にわたり米軍の駐留に反対の声を上げ続け、北朝鮮問題についても対話と外交による解決をアピールする「ウィメン・クロスDMZ」の国際行動に参加して非武装地帯(DMZ)に足を踏み入れました。彼女は現在の危機を招いた原因は基地の存在にあると言います。沖縄の普天間基地の返還に伴い8千人の海兵隊をグアムに移動する計画が持ち上がった際には、抗議活動が盛り上がりました。軍用地による島の占有率が現在の約30%強から45%に拡大するという計画で、さらにマリアナ諸島を含む広大な海域を取得して射爆撃演習場にしようとしています。
こうした状況に、彼女はグアムが米国の州にもなれず、独立もできない「植民地」の状態に留め置かれ、差別されていると主張しています。グアムは米国の海外領土です。今も連邦政府が管理するものの、いずれの州や特別区にも属さない未編入領域です。グアム住民は、米大統領選にも投票できず、連邦議会に議員一名を送ることはできますが、議決権は制限されています。本土からの財政支援も少なく、三等市民の地位に置かれているとナティビダド氏は言います。この状況は米国内でほとんど認識されておらず、本土の人々にもっと訴えたいと語り、また米国の軍事主義に対抗する手本として、沖縄の平和運動を挙げています。
バイン氏は世界中に展開する米軍基地の弊害を説きます。グアムは1898年の米西戦争でスペインから割譲された植民地で、第二次世界大戦時に3年間日本に占領されました。戦後、米軍は日本軍が建設した基地をそのまま再利用し、冷戦期には西太平洋における最重要軍事基地として島全体を巨大軍事要塞化していきました。彼は基地が米国及び世界の防衛と安全を保ち、抑止力を持つという外交政策上の常識に疑問を呈します。旧ソ連がフロリダの目と鼻の先にミサイル基地を建設したことで核戦争寸前まで行ったキューバ危機が示すように、基地の存在そのものが緊張を高めるのだと主張します。米国の在外基地は世界に800か所にも上り、現地住民やその環境および文化に損害をもたらしています。基地の維持には国務省全体の予算を超える巨額の費用が投入されており、他国との軍事的緊張を高める使い方はすべきではないと主張します。
在外基地批判を展開するゲスト二人の主張から、グアムと沖縄の共通点がいかに多いか驚きます。中央の地方自治権への侵害、基地依存経済からの内発的発展の阻害、先住民差別、米国本土の在外基地現地への無頓着ぶり、安全保障を口実とするも国家間の対立が激化した場合、矢面に立たされ捨て石とされる現実、無邪気な差別による基地押し付け、環境アセスの無視、環境破壊、治安悪化等々、ここは沖縄かと見紛うほどです。米軍基地は全世界で弊害をまき散らしているというバイン氏の指摘に耳を傾けるべきでしょう。11月、普天間飛行場の辺野古移設に反対する「オール沖縄会議」がショーン・マクブライド平和賞を受賞しました。その長年にわたる「非暴力の取り組み」は、世界中の在外基地負担にあえぐ人々に希望を与えてくれます。基地建設を推し進める日本政府は、この受賞の意味をどのように受け止めているのでしょうか。(岩川明子)
*リサリンダ・ナティビダド(LisaLinda Natividad):グアム平和正義連合会長、グアム脱植民地化委員会のメンバーでグアム大学の教授
*デイビッド・バイン(David Vine):『米軍基地がしてきたこと』の著者。アメリカン大学の准教授、文化人類学。
字幕翻訳:デモクラシー防衛同盟
千野菜保子・仲山さくら・水谷香恵・山下仁美・山田奈津美・岩川明子
全体監修:中野真紀子