スティグリッツ「米国の金利政策が世界的な経済危機を悪化させる」(前半10分)
☆学生字幕翻訳コンテスト2023の授賞作品です
戦争やパンデミックによって世界的にエネルギーと食料価格が高騰し、すでに気候変動の影響で干ばつや飢餓に苦しむ国々は貧困と不正が永続化しています。米国は物価の高騰を抑え込むため金利を引き上げていますが、著名な経済学者ジョセフ・スティグリッツ教授は、米国の高金利政策は国内の物価沈静にはつながらず、むしろ世界経済に悪影響を与え、とくにグローバルサウスの債務危機を一段と悪化させていると批判しています。
高金利は世界中の投資資本を吸い寄せ、他の通貨の交換価値を低下させますが、多額のドル建て債務を抱えるグローバルサウスの国々にとっては返済額の実質的増加と支払い金利の上昇というダブルパンチになります。他国への影響を顧みない金融政策は世界経済に悪い影響を及ぼします。
もう一つの問題は、世界経済発展の鍵として新自由主義者が推進してきたグローバルな自由貿易体制のほころびです。コロナ禍とウクライナ戦争で、サプライチェーンの脆弱性が浮き彫りになりました。世界のどこからでも、いつでも、必要な物資を調達できるという前提でジャストインタイム生産方式にシフトしてきた企業は、在庫を徹底削減したおかげですぐに生産に支障をきたす事態になりました。
結局、目先の利益しかみていない市場システムを過度にはびこった結果が、現在の混乱の大きな原因になっているのです。米国は最近、国内の製造業の再生が必要だとして、国内企業優遇の法案を通過させましたが、これはWTOのルールに背いた国際貿易規範の無視であり、グローバルな国際秩序の立て直しが必要となっているとスティグリッツ氏は指摘します。(中野真紀子)
*ゲスト:ジョセフ・スティグリッツ(Joseph Stiglitz)ノーベル賞受賞の経済学者、コロンビア大学教授。最新の著作 "People, Power and Profits: Progressive Capitalism for an Age of Discontent"
字幕翻訳:寺岡二千和 (慶應義塾大学法学部政治学科4年 受賞時)
校正:中野真紀子